日本の農業
日経BPの山崎さんが「農業を日本の先端産業にする」という前回の続きのコラムを書かれているので、これを紹介する。彼の提言は次の通り。
1.日本の農地ができるだけ使われるようにする
農業土木にお金を使わず、農業をやりたい人にお金を出す。フランスでは、農業所得の8割がアメリカでは3割が補助金という。
*前ブログでも識者が皆農家に直接生活保障をするというので、私もそうかなぁと思ったのだが、所得の8割も保障されて、働く気になるものだろうか。モラルハザードって起きないのだろうか。
2.日本の農産物の値段を下げ、品質をあげる
値段が下れば、消費者は国産品を購入するようになり、輸入穀物が高まれば、米でパンを作る工夫などをするようになる。
3.日本の農家の担い手を増やす
農業をやりたい若者が農業に従事できるように、農業経営教育機関を作る。後述するフランチャイズ方式を導入し、資金や経験がなくても参加できるようにする。農業法人で勤めるなども可能に。
4.食の産業に学ぶ
自由競争の下、消費者ニーズを把握し、商品開発に切磋琢磨する。
5.グルメ型農業のすすめ
日本はすでに高級食材を作っているので、それを海外へ。他産業では当たり前、欧州農業では当たり前のマーケティングや消費者ニーズ調査を行う。生産から消費までのバリューチェーンを構築する。
6.フランチャイズ型農業のすすめ
農業の担い手の事情はさまざまなので、あるものは、商品開発とマーケティングや販売、あるものは、農地提供、あるものは農地と労働提供、あるものは、労働を委託するといったように、いろいろな形で参加できるようにする。
*コンビニのように、本部があって、農家がフランチャイジーになるのは、一つのやり方として評価できる。本来は、農協がこのフランチャイザーのような役割を果たすはずであった。あるいは、エンデバー(ハンズオン型のVC)のような組織がやる気のある農家の経営を支援し、組み合わせやマーケティングなどの手伝いをするやり方もあるだろう。
*山崎さんが以下に事例としてあげている新福さんは、そういった(フランチャイズの本部の)やり方のようだ。
7.たたきあげ農業経営者のすすめ
すでに、農家、農協、農業生産法人、株式会社などで優れた農業経営者が生まれている。こうした人を中心的に増やしていくイメージ。(都城市の間さん:養豚、新福さん:数百の農家を組織化)。
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一方で、社団法人農山漁村文化協会では、月刊現代農業を出しており、そこの記事(北林寿信さん)では、「貿易自由化は穀物不足をさらに悪化させる」という主張を掲載している。その根拠として使われているのが、UNDP(国連開発プログラム)がまとめたレポート「2006年アジア太平洋人間開発報告」の第三章「MAKING AGRICULTURAL TRADE WORK FOR THE POOR」である。
このレポートでは、自由貿易は、低所得の消費者に安い食糧を提供してくれる一方で、零細な農家や漁家の生存を脅かすとしており、政策決定者は、人間開発を促進する方向で農業貿易のバランスを考える必要があると主張している。
1.輸入国(先進国)の保護主義政策で途上国は輸出伸ばせない。
2.輸出国が換金作物(コーヒーやお茶など)に集中すると、その価格が下り、輸出から得られる利益が減少する。他の作物に転換するだけの能力がない。
3.原材料的な輸出(コーヒー、お茶、タバコ、ココア、砂糖、綿など)の価格は、先進国の輸出品(園芸、牛肉、酪農品)よりも価格が大幅に低下した。
4.先進国は、農業に補助金を与えているので、ダンピング輸出となっている。これにより、アメリカは、コーンや大豆の輸出で高い地位を得ている。
5.途上国は、食糧輸入国となっている。
6.スーパーなどの多国籍企業は、大規模農家と契約するので、灌漑、温室、トラック、冷蔵設備などに投資できない零細農家は取り残されている。
7.種子ビジネスなど多国籍企業に支払い、農家には、儲けが回ってこない。
このため、UNDPは、農業政策について7つのポイントを提言している。
1.農業に関心を持つこと
2.途上国が団結すること
3.途上国間の異なり国益を調整すること
4.貧しい国の利益を促進すること
5.地理的な指標と知財を活用すること
6.国の漁場を改良すること
7.地域開発に投資すること
上記4では、関税や弱いグループへの支援が必要としている。
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つまり、農文協は、貿易自由化を進めると、UNDPのレポートで示されているように、零細農家の生存が脅かされると主張している。その際、内閣府の経済財政諮問会議の報告書が自由化を主張しているレポートを槍玉に挙げている。
しかし、UNDPが記しているのは、途上国のなかでも貧しい国の話である。農業への政策支援が乏しいなかで、貿易を自由化した場合の問題を述べている。
一方、日本の場合には、戦後60年以上にわたって、さまざまな保護政策を実施し、灌漑など土地改良や水利などの投資をさんざんしてきたにも係わらず、むしろそのお陰で国際競争力を得られていない話である。
前ブログに記したように、山崎さんが提案したようなフランチャイズ制度や、生産から販売までのバリューチェーンを構築できていないうちに、一気に自由化した場合の衝撃が大きく、立ち直れないほどになってしまうかもしれない。しかし、方向としては、生産性を高める(大規模化とは限らない、補完方式、高付加価値化など戦略はいろいろ)、高めやすい環境を整えることが必要なはずだ。
もちろん、国内の革新度合いを見ながら、関税引き下げの度合いを斟酌したり、自給率を高めるために担い手の所得を補助することも必要である(出し方を直接にするなど方法は検討する必要があるが)が、基本的に農家が主体性を持って需給を判断して農業を営める環境づくりが不可欠だろう。
農家・農村・都会の農業地、観光と農業、環境と農業・・・地域イノベーションにとって、これはキーワードの一つであるはずだ。
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