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2011年5月12日 (木)

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『公明新聞』2011年5月2日(月)に書評を掲載しました。(原稿はこちら「share.doc」をダウンロード

三浦展著『これかららの日本のために「シェア」の話をしよう』NHK出版、2011年2月です。

若者たちの間で、「所有」にこだわらず、むしろ「共有」することによって新しい価値観を生み出そうとする動きが強まっていることをまとめた本。

「シェア」することによって、コミュニケーションが活発化したり、人と人とのつながりや助け合いが増えることに着目している。

三浦さんは、私有を否定している訳ではなく、あるものは私有するが、あるものは共有するという傾向が強まっていることを示している。

そして、「共有」だと日本経済が減速してしまうのではないかという懸念に対し、むしろ、これからの日本の有り様を考えると、共有ということを前提にした方が新しいビジネスが生まれるとしている。

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三浦さんの本は、新しい動きを「シェア」というキーワードでいち早く整理して示したところに意味があるのだと思うが、整合性が取れているのかどうかちょっと気になる面もある。

三浦さんが指示していることは、大きく3つある。

1.所有から共有(シェア)へという価値観の変化、骨董も時間差共有の一つ

2.シェアすることによって、コミュニケーションが生まれ、助け合いなどが進み、高齢化や非婚者が増えるなかで、日本にとって良い方向である→共同体ならぬ共異体だ

3.これまで「公」は、もっぱら官が担ってきたが、民間が個人の自宅や庭を開放して「公」の場を提供する動きがある(これもシェアとしている)

そして、シェアが進んでも、見方を変えれば、新しいビジネスチャンスがあるとして、いくつかの考え方を示している。

たとえば、ワンルームマンションだと、一人ずつ小型で安いたぶん中国製などの家電製品を揃えるが、シェアハウスなら皆で使うので大型冷蔵庫や立派なキッチンが求められる。家電メーカーは、こうしたトレンドを考えて製品開発すべきだ。

高齢者が空いたスペースを若者とシェアするには、仲介に工夫がいるので、新しいタイプの不動産屋が生まれる。古い建物をリニューアルして今風にすれば高付加価値物件として売れる。あるいは、小布施のように個人の庭を開放することで観光客を増やしているなど。

どれも、新しい動きとして実際にあるし、間違いではない。

ただ、何か違う気がするのは、なんだろう。

1.この本は、今回の震災前に書かれており、震災後に私たちの価値観が三浦さんが思っていた以上に大きく変わってしまったことが関係しているのかもしれない。

つまり、もうエネルギー多消費型の生活には、戻りたくないということを骨身に沁みて感じてしまった。人間がコントロールできない原発にまで頼って豊かさを享受したいとは思わなくなっている。

もともと、大所高所から、エコとか地球環境とか言われてきたものの、ぴんと来なかったのが、自分のこととして感じられるようになった。

だから、共有によってむしろ大型冷蔵庫が必要とされるなどの喩に違和感を感じるのかもしれない。

むしろ、たとえば、ある地域でソーラーパネルを各家に設置し、それを蓄電・利用できる仕組みを作るなどの話があると納得するのかもしれない。

2.所有しなくても良いという感情とコミュニケーションを求めたり助け合ったりすることを同じ流れでとらえているが、もしかすると、これは別々のことなのかもしれない。

住宅を高齢者と若者がシェアし、お互い助け合えるという事例があるとしても、それはたまたま重なったに過ぎないのではないか(一般化しにくい)。

昔は、貸家が中心だったから、生活スタイルに応じて家を移ればよかった。その方が合理的なので、そういうスタイルが求められれば、そういうサービスが増え、所有する人と賃貸する人とが存在するようになる。所有していても管理が面倒なので、信託方式が増えるという流れの方が主流のような気がする。

一方で、助け合う仕組みやコミュニケーションを取ることが求められ、そうした仕組みづくりが進む。それは、サロンづくりだったり、仕事づくりだったりし、その一つが高齢者と若者の住宅のシェアであったりするのだろう。

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スケールアウト(こらぼ屋)

日本の地域活性化は、その地域をどうするかというところから始まるため、それを全国的に展開しようということになかなかなりにくい。

一方、社会起業家がやる事業は、社会を変革することを目的としているので、事業を全国、さらに海外にまで素早く展開したいと考える。

しかし、地域ごとに違いがあるので、スケールアウトしようとする。

スケールアウトとはコンピュータ用語で、ひとつのサーバーの能力を上げる場合がスケールアップで、そうではなく、いくつものサーバーをつなげて結果として能力を高めることをスケールアウトという。社会を変革するには、スケールアウトが適している。

日本でも、ある地域で始まった試みを標準化し、全国展開しようとしている例も出てきている。その一つとして、今回は、三重県四日市の「こらぼ屋」がはじめたワンデイシェフ・システムを取り上げる。「onedayshef.doc」をダウンロード

主婦など素人さんが、日替わりで食事を提供するというもので、素人シェフには、張り合いが生まれ、地域のコミュニティが活発化するというのが狙いだ。

ワンデイシェフ・システムを考え出した海山さんは、さらに狭い地域で展開する結縁屋台+サロンを提案している。

スケールアウトではないが、西東京市でも、仙人の家というサロンがまもなくオープンになるし、小平市でタウンキッチンをやっていたところにコミュニティスペースを拡張するらしい。

こういうのは、流れなのだろう。

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