札幌エリアの情報化の歴史について、情報産業政策と市民生活へのIT活用について述べてきました。これに加えて、札幌市におけるIT活用について紹介しておきたいと思います。
札幌市では、1997年に「札幌市情報化構想」を定めました。その基本コンセプトは、「情報という縁で結ばれた街をつくる」で、双方向コミュニケーションの構築と新たなコミュニティの創出を目指していました。町村合併と都市化で巨大化してきた札幌市にとって、地域コミュニティをどのようにつくるかということが大きな課題として意識されていたようです。
当時、藤沢市がすでに市民電子会議室による市民間、市民と市役所間のコミュニケーションに取り組んでおり、そのノウハウを入れ込んだ電子会議ツールが開発されていました。そこで、札幌市でも、このツールを活用し、1998年から開設に向けての実験(子育てのML)、1999年「政策研究電子会議(社会実験)」を開始し、2000年に札幌市電子会議室「eトークさっぽろ」を本稼動させました。
実験を通して、市民同士、市民と職員のコミュニケーションスキルが高まるとともに、たとえば、子育ての話から税制の問題や産業振興策にも触れなければならなくなるため、縦割りでは対応しきれなくなり、自発的に市役所内の情報交換の場である「@る~む」という会議室も生まれました。
また、「発想庵」という電子コミュニティも生まれました。これは非公開で、職員が問題意識を持った場合に自由につくれるもので、そのテーマに関心のある市民やその道のプロなどを交えてあるテーマについて研究するというものです。たとえば、「さっぽろライフ」という研究会では、本州の幸せと北海道の幸せは違うだろうということで議論し、ライフスタイルブックを編集することに結びついたそうです。
こうして始まった「eトークさっぽろ」では、毎年いくつかのテーマごとに会議室が設けられました。その一つ「札幌市HP編集会議」を例にとると、市民から「使いにくい」、「こういう情報も欲しい」などの苦情や要望が寄せられます。
単に知りたいなら情報を提供すれば終わりですが、「こういうサービスが欲しい」という要望に対し、「サービスを開発して提供する」、「それが具体的に成果として現れる(この場合、HPが変わる)」、「広報からリリースされる」ことを通して、意見を言った人は、満足感や役割感、行政に対する信頼感を感じるようになります。こうした感覚が、新しい改革への期待感、政策への参加意識、新たな課題の発掘につながっていくと思われます。(市役所HPにある5つのインデックスは、この会議室から生まれました。)
電子会議室を通して、職員も市民から生の意見を接することでやる気が出たり、市民の方も、職員が一生懸命なのをみて、単なる苦情を言うスタンスから励ましあう、あるいは前向きの提案をするように変わっていくなどの変化がみられたとのことです。
「eトークさっぽろ」は、2001年度までの事業として一旦終了しています。私自身は、この経緯を体験していないのですが、小さなことでも、自分の意見が政策に反映され、自分たちのまちが暮らしやすくなる体験は、自発的な市民を生み出すうえで(ソーシャル・キャピタルの増加)非常に重要なことと思われます。
ただ、実際には、190万人もの市民に網をかけるのは、難しいかもしれません。前に書いたネットワークの階層性のように、コミュニケーションのための社会的ネットワークは、最大150人までなのではないでしょうか。経験した方の感想でも、やはり、実験段階のコミュニケーションが一番実りある会議であったようです。ここでの興奮を体験した人々は、その後もNPO活動などを積極的になさっているらしいです。
ちなみに、前の記事のNCFとの関係では、NCFのメンバーは、この会議室でもずい分活躍したり、支援したようです。
札幌市では、その後、コールセンター「ちょっとおしえてコール」(民間委託が話題となっています)をCRMの一貫として開設しました。ここでは、単に問い合わせに答えるだけでなく、市民からたくさんの問い合わせがあった内容については、サービスを開発、提供するなど政策に反映する姿勢となっています。
(資料)淺野隆夫「IT活用による地域メディアづくり-自治体がメディアになるということ」『IT社会とこれからのまちづくり』(平成13年度地域活性化フォ-ラム講演録)(財)地域活性化センター、淺野隆夫「電子会議室とWebが作り出す新たな市民メディアの考え方」『都市問題研究』平成14年10月号
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