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June 09, 2005

暗黙知の獲得2

関満博さんとの共編『モノづくりと日本産業の未来』では、第二章「職人の実態」を書かせてもらいました。そこに、職人の三条件を挙げました。

  • 職人とは、訓練の積み重ねによって、モノづくりに必要な技能(いわゆる手技、腕)を備えた人のことである。

  • この技能とは、単なる運動能力を挿すのではない。素材のこと、道具のこと、モノづくりの全過程のこと、さらにその製品の使われ方など、自らの仕事に対して統合的な知識を持っていて、ときとところに応じた判断ができ、その判断に基づいて具体的に身体を動かすことができることを挿している。

  • そのうえ職人は、新しい課題が生じた時に、これまでの経験から類推して、それを乗り越える方法を見出すことができる。

この三条件は、私が職人についていろいろ勉強するなかで抽出したものです。しかし、それぞれについて根拠のようなものがあったわけではありません。

たとえば、「訓練の積み重ねでモノづくりに必要な技能が備わるのはどうしてなのだろう」、「なぜ新しい課題が生じた時に、これまでの経験から類推することができるのだろう」と思いましたが答えを得られていなかったのです。

しかし、その後、前者については、鈴木良次『手のなかの脳』、第三章「手の技能は学習によって獲得される」を読んで分かったような気がしました。後者については、野中先生がサイモンの研究について説明するなかで、「発見法的推論=ヒューリスティック」について触れており、これも分かったような気がしました。以下では、これについて紹介します。

あかちゃんがおもちゃに手を届かせる場合、制御対象(あかちゃんの手)、コントローラ(脳の運動野)、センサー(目)、比較器(脳の連合野)、目標(おもちゃまで手を届かせる)と考えます。

おもちゃに手を届かせるという動作は、脳のなかでは、最適な軌道の計画、逆キネマティクスの計算(手先の位置から関節の角度を求める)、逆ダイナミクスの計算を行って必要なトルクを計算し(関節を目標どおりに回転させるに必要な回転力を計算する)、求められたトルク(筋肉への収縮指令)を脊髄の運動ニューロンに送り、運動の制御を行っている。

最初は上手くいかず、届かなかったり、行き過ぎたりしてやり方を修正します(フィードバック制御)。この場合、誤差がなくなるまで、制御信号を修正するのですが、センサーから比較器まで信号が戻るまでに時間がかかるため、あかちゃんの動きはぎこちないものになります。

ところが、大人になるとこの動作をスムーズに行うことができるようになります。フィードバック制御に頼って動かしていた手の動作と相似の仕組みが小脳のなかにできて、あとはそれを使ってあたかもフィードバック制御を行ったかのようにして運動指令が行われるからとのこと。

フィードバック制御を使った動作は、結果をみてやり方を修正するのに対し、結果がどうであれ、とにかくあらかじめ決めたとおりに動かしてしまうという制御方法をフィードフォワード制御というそうです。これによると、フィードバック制御に比べ時間的な遅れが少ない。

実際には、手の動きを脳に伝えるフィードバック信号は、目だけでなく、筋肉内のセンサー、皮膚感覚を通しても送られている。誤差の修正はこれらからの情報も使われているとみられています。

手を使うと脳が発達し、脳が発達すると熟練が高まるという関係がなんか分かった気がします。

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