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December 31, 2005

設計科学 その5

同じセミナー資料に、吉田氏の「大文字の第二次科学革命」という論文が掲載されている。

長文で難解なのだけれど、これも少しづつ紹介しながら読み進めてみる。

まず、この論文の目次を書き記す。

1.旧科学論の三つの根本命題と20世紀科学の変貌

2.新科学論による三つの代替提案

3.「経験的因果関係」を説明する三タイプの「理論的因果関係」

4.「自然の秩序」をめぐる新旧科学論の比較対照

5.新しい学問体系をめぐって

6.新科学論の科学史的意義

まず、一章から。

1.旧科学論の三つの根本命題と20世紀科学の変貌

○個別科学のパラダイム:小文字のパラダイム、科学総体を通低するメタ・パラダイム:大文字のパラダイムと呼ぶ。

○17世紀のニュートン力学を契機として成立した近代科学の科学総体を通低するメタ・パラダイムは、今日という時点で捉えるなら、次の三つの命題から成り立っている。

(1)科学という知の「目的」は、物質層から生物層をへて人間層へいたる全自然の過去、現在、未来にわたる「認識」に限定される。・・この第一命題を「目的:認識一元論」、略して「認識一元論」と名づける。

(2)物理層から生物層をへて人間層へいたる全自然の「根源的な構成要素」は、唯一つ「物質およびエネルギー」である。物質とエネルギーは、アインシュタイン以後、同一物の異なる存在形態と認識されているから、この第二命題を「構成要素:物質一元論」、略して「物質一元論」ないし「汎物質論」と名づける。

(3)物理層から生物層をへて人間層へいたる全自然の「根源的な秩序原理」は、唯一つ決定論的/確率論的および線形的/非線形的な「法則」である。この第三命題を「秩序原理:法則一元論」、略して「法則一元論」ないし「汎法則主義」と名づける

○20世紀科学の成果とされるもののうち、前半の相対論と量子論、そして後半の複雑系科学または非線形科学は、いずれもこれらの三大命題と矛盾するものではない。けれども、20世紀科学には、三大命題に疑問を投げかける成果があった。

(1)20世紀に実現した「技術の科学化」と「科学の技術化」は、日本語で「科学技術」と呼ばれる科学と技術との融合をもたらした。この融合は、近代科学の「認識一元論」の再考を迫るものである。

だが、「社会のための科学」(実践的課題の解決)と「科学のための科学」(認識一元論)とは、目下「科学論」として分離・並列したままである

(2)遺伝情報と神経情報と計算機情報は、「自然言語としての情報」を崩壊・拡大させ、「情報」という述語は、物理科学を含めて学術の全域に浸透し、近代科学の「物質一元論」との関連を問うことになった。

だが、情報概念は、目下のところ、専門分化した個別領域の間で相互に無関連のまま、かつ物質範疇との理論的関連(たとえば一元論か二元論)を突き詰められることもなく放置されている。

(3)ゲノムの発見は、生物層の秩序が「普遍かつ不変と措定される法則的秩序」とは異なるタイプの「特殊かつ可変な秩序」であることを解明し、近代科学の「法則一元論」に一石を投じることになった。

だが、分子生物学やゲノム科学の科学史的位置づけ(相対論・量子論とゲノム論はどちらがより革命的か)(20世紀ゲノム革命は、17世紀ニュートン革命の枠の中か外か)については、「物理科学還元主義」による正統派(旧科学論)の公式的解釈が優越し、ゲノムは目下「生体内で作動する物理科学法則の境界条件」という以上の解釈を与えられていない。

(4)人文社会科学との関連でいえば、新興の「情報」と旧来の「意味や心や精神」との、新興の「ゲノム的秩序」と旧来の「倫理的・慣習的、契約的・法律的秩序」との、あるいは「生物科学のゲノム論的転回」と「人文社会科学の言語論的転回」との、それぞれ関連が問われて然るべきであるが、文系学術と理系学術の乖離・分裂が、その種の学問的動機づけを強くは鼓舞しない。

相対論と量子論は、哲学的思惟に影響したが、「ゲノム」の思想的・思想史的意義を徹底して追及する哲学的営為は未だ登場していない。

・・ポイントのみ紹介しようと思ったのだが、もともとの文章がポイント的であり、理解困難なので、安易に省略ができず、結局全部写すことになってしまった。

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設計科学 その4

3.最適化と満足化:現実主義的設計と理想主義的設計

○経済学的・工学的な設計の多くは最適化を、公共政策の基準値や規制値は満足化をそれぞれ決定基準にしている。

○最適化の水準は、与件のいかんによって決まり、満足化の水準は、要求水準のいかんによって決まる。

○最適化は、改善の可能性のない状態であり、満足化は、改善の必要のない状態である。

○設計を促す問題状況の多くは、満足化していないが最適化しているという状態、すなわち改善の必要性があるが改善の可能性がないという状態である。

○とすれば、改善の可能性を切り開くために与件とされる条件を変える必要がある。与件の設定を前提にする設計である。

○現実主義的な設計は、「可能性」を重視し、理想主義的な設計は、「必要性」を重視する。

○後者は、当然のことながら壁にぶつかる。その隘路を克服するためには、設計の与件、すなわち設計の支援/制約条件となる既成プログラムの「ロバスト性」の再検討を欠かせない。与件の改善を設計した上での設計である

・・なるほど。

まだ、応用できないけど、なんとなく分かる。札幌ITカロッツェリアの終盤に向けて、与件を変える必要がありそうだ。

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設計科学 その3

2.設計の支援/制約条件:新規プログラムと既成プログラムとの関連

○「設計」は、何らかのプログラムの設計である。

○オゾン層の回復など物質界の設計は、「物理科学法則」を支援/制約条件にしてプログラムが設計される。

○遺伝子組換え作物など生物界の設計は、「遺伝的プログラム」を支援/制約条件にしてプログラムが設計される。

○とすれば、人間界の設計の場合、いかなる支援/制約条件のもとでプログラムが設計されるのか。

○社会的設計や社会的意思決定において、物理工学的設計における物理科学法則に匹敵する支援/制約条件となるのは、「変えることが困難だと認識」された、あるいは「変えるべきでないと評価」された既成の社会的プログラム、すなわち変更困難/変更不可とされる既存の価値観や倫理や慣習や制度や法律やソフトローである。これをロバスト(robust)な設計プログラムと呼ぶことにする。

所与の設計に関連する既成プログラムの「ロバスト性」の判断が、新規プログラムの創意工夫と並んで、設計をめぐる最大の争点の一つとなる。

・・robust:がっしりした、強い

・・ここは、既存の価値観や制度が新しいものを作り上げるときの制約になるということなら実感としてよく分かる。

・・しかし、物質界の設計が物理科学法則に支援/制約されるというたとえから考えると物理科学法則がときには、縛りになるとも読める。が、一方で、物理科学法則(認知科学から生まれた)と既存の価値観や制度とを同じにしているところがなんだか分かりにくい。

でも、ここもまぁ、置いておくことにして、先へ進む。

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設計科学 その2

「設計をめぐる三つの話題」として書かれたセミナー向け書き物からの紹介。

○吉田氏は、「設計」を、計画的・自覚的・事前的な設計ばかりではなく、自生的・無自覚的・事後的な設計をも意味している。

○事後的設計とは、自生的・非計画的な設計が、その成果に異論がなく、あるいは成果を認められて定着するケースを指している。

1.集合的な設計主体の設計:かつての「社会体制論」の現代化

○集合的な設計主体の設計には、2つの基準がある。一つの基準は、分権タイプと集権タイプ。もう一つの基準は、参加タイプと委任タイプである。

○二つの基準を組み合わせれば、①分権=参加型、②分権=委任型、③集権=参加型、④集権=委任型という4タイプの集合的な設計主体を設計することができる

このどれをとるかは、準拠する社会システムと設計課題とに相関して決まる。

○かつての「社会体制論」(資本主義対社会主義、市場機構対計画機構)は、この4タイプの集合的主体の在り方を、すべての設計課題を一括して問題にしていた。

○しかし、今日、ミクロとメゾとマクロのあらゆる準拠システムで、「仮想的、かつきわめて可塑的・実験的な公共アリーナ」としてのインターネット空間をめぐって、集合的な設計主体の設計が問題になる。

○社会的意思決定(社会的合意形成)ないし集合主体に関する一つのイデオロギーは、分権=参加型をデモクラット型、集権=委託型をテクノクラット型と位置づけることが多い。だが、集合的設計主体の設計は、準拠システムと設計課題とに相関して、脱イデオロギー的でなければならないのではないか。

○上記4タイプのすべてが状況相対的・コンテクスト依存的に選択の対象になって然るべきであろう。その際、もっとも重要なコンテクストが準拠システムおよび設計課題である。

・・う・う~ん。難しい!

分権=参加型をデモクラット型、集権=委託型をテクノクラット型と位置づけることは、良く分かるような気がするが、吉田氏は、そうではないと言っているのだ。時と場合によって、どれが良いかを選択すべきであると言っている・・のだろう。

取りあえず、ご紹介まで。

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設計科学 その1

夏にグローコムのセミナーに参加した折、吉田民人氏の設計科学というのを知った。

このブログで紹介しようと思いつつ、理解を超えているところがあって、挫折してきたが、年末年始で時間に余裕がある今、再挑戦してみる。

まず、分かっているところからの紹介。

これまでの科学は、認知科学であって、世界と対峙し、それを分析して理解しようとしてきた。

これに対し、設計科学は、役に立つ科学であって、世界と対峙するのではなく、世界と人間とがインターフェース=ネットワークし、実験する科学である。

次には、セミナーで配られた吉田氏の二つの論文を抜書きしてみる。

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December 30, 2005

札幌ITクラスターの検討 その16

前に書いたものから、今考えることに使えそうなもののピックアップ。

1.地域産業のポートフォリオを4象限で考える。①花形商品(高成長、高シェア)、②金の成る木(低成長、高シェア)、③問題児(高成長、低シェア)、④負け犬(低成長、低シェア)。金の成る木を資金源として、花形商品や可能性のある問題児に資金を集中、負け犬を切る。・・アメリカでは、ベンチャー経営者(金の成る木)から名誉のためにと寄付をさせ、低所得者層の支援などをする社会起業家に資金を回す社会起業家が花形のようだ(新しいキャピタリスト)。札幌で金の成る木はパチンコ屋かもしれない。名誉のためと寄付させ、それを社会に役立たせるプロジェクトに回す、そのプロジェクトにIT企業を噛ませるというスキームは作れないものだろうか。一番分かりやすいのは、障害者にPCで自立させるとして使いやすいPC開発をする・・伊福部先生の研究をコアとして広げるでも良いかも。

2.実験主義。エクセレントカンパニー、シリコンバレー。だめもとでやってみる。

3.野中先生:「組織は、情報処理の効率化ではなく、情報を創造すべき」、「組織は主体的にイノベーションの努力を行う」、「組織は、有効な情報創造のために、冗長性や不安定性を必要とする」・・この組織を地域に置き換える。地域は、逆に冗長性や不安定性が常態である・・・有効な情報創造が行われるはずなのに、行われていないのは何故か。「組織にとって、驚きを与え、それによって解釈の次元を提供するような意味の創造は、人間同士の対話からもたらされる」・・とすると、地域には、冗長性や不安定性はあるが、解釈の次元を提供するような対話がないということになる。これは、よそ者がいて、そこと対話しているかどうかかも。よそ者がいても、排除・無視・はしごの上に載せる(単なる講演会)で対話していないのかも。

4.問題発見→解決ではなく、ビジョン→実現のための方策

5.富山の薬売りが「先用後利」や懸場帳によるワン・トゥ・ワンマーケティングを発明したような新しいビジネスモデルを札幌で生み出せないものだろうか。

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December 29, 2005

札幌ITクラスターの検討 その15

生態系という考え方から札幌ITクラスターを検討してみよう。

札幌ITクラスターは生態系になっていないのではないだろうか。捕食関係のようなものを考えてみると、プランクトンを少し大きな魚が食べて、それをもう少し大きな魚が食べることで生態系は成り立っている。

ところが、札幌ITクラスターには、お客が居ない。お客は、本州の親会社で、その先のお客も見えない。オウルは、確か軍事関係の通信機器でノキアが生まれ、オールボーでは、船舶無線からそれぞれ携帯電話関連のクラスターが生まれた。

札幌ITクラスターがオールボーを真似るなら、観光、農業、医療・福祉などのクラスターをお客に、捕食関係の連鎖を作る必要があるのかもしれない。

この間、飲み会でお目にかかった医療の先生が、本州からスギ花粉症の人を北海道に非難させる観光プロジェクトをまもなくはじめるといっていた。確か、単なる観光ではなく、それまでに臨床データを取っておいて、旅行中もチェックできるようにしておくといったような話だったと思われる。これには、臨床検査の企業や旅行会社・航空会社が絡んでいたと記憶する。

異なる空気→花粉症対策→医療→データ→観光→・・といった連鎖だ。残念ながらこの連鎖に札幌IT企業は入っていないのだが、上記のプロジェクトを膨らませて、IT企業も連鎖のなかに入り込むと面白いかもしれない。

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札幌ITクラスターの検討 その14

人々が自発的に組織に参加してネットワーク化され、互いに信頼や吾酬性の規範が出来ている地域は、ソーシャルキャピタルが醸成されていると言われる。

札幌ITクラスターの企業やそこで働く人の関係を考えると、知り合いでないわけではないが、残念ながら信頼や規範が生まれるほどのネットワークになっていないように思われる。

これに、官、学を含めてもそうである。

パットナムが比較する南イタリアのような垂直的なネットワークとは、いわば田中角栄的な親分子分の間柄を言うのだけれど、札幌ITクラスターの場合には、そういう親分子分の関係は少なそうだ。しかし、下請け構造の企業は、親会社を向いており、横と連携しようとは思っていない。一方、独立一匹狼は、他に無関心といったところだろうか。島がバラバラという感じである。

官がいろいろ指図することへの反発と、しかし抜きに考えられない(最大のお客でもある)という複雑な思いもあるが、親分子分的に官に擦り寄るほどではない。一方で、官がやりっぱなしで損害をこうむったという苦い経験はあり、それが不信感を生んでいる面もある。

大学に対しては、わがままな先生に振り回されてこりごりという不信感もある。

同じ企業から分派した同士は、知り合いだが、相手の嫌なところも知っており、仲が良いわけではない。しかし、困っているときに互いに助け合ったという間柄の企業もそれぞれある。

札幌ITクラスターの担い手間に信頼や規範が行き渡るようにするには、どうしたら良いのだろうか。

M社長は、ルールづくりをしておけば、共同で仕事をすることは可能なはずだという。同じルールでも、信頼関係がある場合には、生きるが、そうでない場合には、うまくいかないこともある。逆に、ルールを明確にしておけば、共同で仕事をし、そのうち気心が知れて信頼関係につながることもあるだろう。

ところで、M社長が言うところのルールづくりって何だろう。契約のことなのだろうか。契約なしにナアナアでやってしまい、損をしたとして不信感が蓄積されてしまっているのだろうか。このルールづくりと不信感の一掃について、もう少し考える必要がありそうだ。

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December 28, 2005

札幌ITクラスターの検討 その13

私の良く存じている札幌IT企業のY社長は、市場に出回っている高額な商品をリバースし、たとえば、10分の1の値段にすることを考えて、大衆市場を開拓するという手法をとっている。2割安いではなく、10割安くすることで中の部品やソフトウェアをうんと工夫するのだ。どこよりも安く作ることで、参入者を寄せ付けない。

日本製品は、中国などの安い量産品に負けている。東京に比べれば、札幌のコストは2割くらい安いかもしれないが、これでは、中国品に負けてしまう。そこで、札幌では、低賃金や量産ではなく、ソフトウェアや部品の工夫で安くする(しかし、他に真似できにくいXが何かしらある)というのはどうだろう。

中国は、低賃金や量産ということで対応しようとするが、札幌の知恵には敵わないというようにならないものだろうか。もっとも、Y社長は、量産品でOEMをしているが、その生産は、中国などで行っている。

ただ、中国やインドには、安くて英語ができて優秀なIT技術者が豊富なので、札幌と同じような戦略を取られたら負けだ。しかし、低賃金と量産品で競争力があるため、札幌のように背水の陣(低賃金と量産では勝てない)で望まないであろうから、そこは、差をつけることが可能かもしれない。

Y社長は、高額商品でかつ組込系のものを見つけ出すのが上手い。彼は、札幌IT企業のなかでは、サラブレッドではなく、異端だが、彼の方式を真似て(競争を増やしたと怒られそうだが)、札幌ITクラスターは、10分の1以上の価格破壊をソフトウェアと部品でやると決めてはどうだろうか。

これは、札幌ITクラスターが全部そうなるという意味ではない。彼に続く企業が10社あるだけで、大きなインパクトになれるのではないだろうか。彼が主に狙っているのは、予防医療機器の分野だが、農業機械や建設機械などもそうなのではないだろうか。要は、法的に何かしら守られてきた業界が狙い目だ。

あるいは、福祉機器のように、強いニーズはあるが、これまで市場が小さかったので、特殊な人がムリして購入していたような分野だ。こういう分野は、競争も少ないし、技術革新も進んでいないのではないだろうか。

自動車や携帯電話のように、世界中を相手にトップ企業がしのぎを削っている業界から比べたら、まだまだなのではないだろうか。こうした競争力のある業界の常識(センサーや部品など)を援用するだけでも、大きなコストダウンや性能向上が見込まれるのではないだろうか。

それには、医療機関が使っていたものを低価格にして自宅用に、特殊な人が使っていた福祉機器を高齢化でさまざまな機能が劣化した多くの人が使うものに、農業機械を低価格にして農家以外でも使えるように・・・低価格化することで市場が大きく開くような分野を探し出す必要がある。

札幌ITクラスターに価格を10分の1以下にし、大衆市場を開拓する能力があると認められるようになれば、そうした相談がやってくる(ハブになれる)。そして、個々のIT企業には、そうした商品の開発を通して、たとえば、ある分野のセンサーでは非常にシンプルで誤差がないコア製品を持つとか、流体力学の計算式について特別な特許を持つとか、要素技術的に優れた蓄積が出来るようになれば素晴らしい。

センサーのソフトウェアの開発は札幌IT企業だが、加工ノウハウは、大田区かもしれないし、それを作るのは中国かもしれない。

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札幌ITクラスターの検討 その12

昔書いたブログをもう一度読み直し、札幌ITクラスターをハブにする戦略を考えてみよう。

ハブになるには、(1)その分野が成長していることと、(2)魅力的なノードであることが必要なのだが、(2)の魅力的という意味は、必ずしも優れているとは限らない。安く制作できるポルノ映画の俳優が、時々普通の映画に出るという設定でだと、その俳優が映画俳優のハブになっているという話がある。

組込系は、前述のように成長分野である。

たとえば、札幌IT企業が優れた開発をしなくても、どんなIT製品にも使われる安くて手軽なソフトを持っていれば、ここがハブになる。

普通の体温計で、非常にシンプルなセンサーを作っている日本のある中小企業が世界のハブになっていると聞いたことがある。これは優れたセンサーの事例だが、昔の技術なので参入が無いが何にでも必要なものなのでハブになるというモノもあるだろう。

たとえば、現在の学生は、ソフトウェアはダウンロードすればよく、自分で開発しようとは思わない。ましてやマイコンキットなどでハンダ付けなどしたことがないと聞く。もし、そうなら、昔からマイコンを組み立てていた人材が蓄積しており、アナログからデジタルまでを知っている人材がいるというのは、試作品などで何か強みになるかもしれない。この辺りは、札幌ITクラスターが本当に「生きた化石」として意味がありそうかどうかを調べる必要がありそうだ。

あるいは、人を集めてユーザビリティテストをするのではなく、ソフトウェアでユーザビリティテストが出来て、これをネット上で実施する。人を集める方法に比べるとテストの水準は低いが、安く、早くできるとなって、多くの試作品のテストが求められるようになると、札幌に沢山の試作品情報が入るようになる。

しかし、普通は、こうしたソフトウェアが開発されたら、売りたくなる。そうなると、どこでもやれることになってしまう。ソフトウェアを売らずに、サービスとして札幌で提供すれば、札幌がユーザビリティテストのハブになれる。

しかし、開発している企業にしてみれば、サービスでテストするだけの知識や人を抱えきれない。そこで、売ってしまおうということになるはずだ。また、サービスで提供したとしても、すぐに真似されるようなものなら、ほかでもそういうサービスが始まってしまうだろう。

先日、食品の味を損なわない冷凍技術を開発した企業の話を聞いた。その人は確か広島の人だが、北海道の資金を得て開発したこともあり、北海道の役に立ちたいと考えている。この技術を大手に売却することも可能だが、できれば、北海道の経済活性化に繋げたいという。

この技術がすぐに真似が出来ず、北海道でまぐろ、高級フランス料理などなどを冷凍して流通させることになれば、北海道はハブになれる。しかし、普通なら、大手に技術を売却なりライセンスし、東京のフランス料理店の側で加工して、全国に流通させたほうがコストが安くなりそうだ。

ここを曲げて、北海道に経済効果をもたらすには、どうしたらよいのだろうか。ライセンスの一部を北海道に還元する、あるいは、北海道マークをつける(それで還元する方法もある)。土地は広いが遠いので、消費地までの流通コストが掛かる北海道で、どうしたらハブになれるかを考えなければならない。

成長分野で、それほど優れた技術ではないが、北海道でしか出来ないものが見つかれば、ハブになれるのだが、それをどう考えるべきか。

YOSAKOIソーラン祭りは、祭りとしては後発の北海道がノウハウを生み出して、ハブになった事例の一つだ。YOSAKOIソーラン祭りに画期的な技術があるわけではない。他地域の人々をその気にさせる仕掛けでハブになった。

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札幌ITクラスターの検討 その11

歴史とか伝統とか言うけれども、これも必ず始まりがある。

だから、現在ないからといって、これまでの伝統とは違うからといって、がっかりする必要はなく、今からはじめれば歴史になる。

ゆらぎは、最初は小さい石が投げられたものでも大きな輪が出来るかもしれないし、消えてしまうかもしれないので、駄目もとで、気楽にいろいろやってみるのが良いのだろう。ゼロと一では、大きく違うのだから。

ITカロッツェリアがそうなるかもしれないし、ユーザビリティがそうなるかもしれない。

あるいは、来年度開校の市立大学がゆらぎを起すかもしれない。

あるいは、来年度、ユーザ産業やIT企業にヒヤリングを始めることがゆらぎのきっかけになるかもしれない。それとも、一つ成功事例が生まれるとゆらぎはじめるのかもしれない。

個々の企業の経営者が悪い、大学のレベルが低いなどが問題なのではなく、環境や他との相互作用の仕方が悪い(文脈)のだとしたら、これらを積極的につなげる努力が土壌のペーハーを変えて、活力を高めるかもしれない。

あるいは、実行機関が道庁の方ではなく、産業界の方を向いただけで、流れが変わるかもしれない。

「ゆらぎ」「閾値」「相互作用」「無用の有用性」「スイッチ・オン」「シグナル分子の濃度が閾値を超える」「ソーシャルキャピタル」「ネットワーク化」「信頼」「規範」「騙されないという信頼」「今すぐ返さなくても後から返す・規範」「弱い紐帯」「自発的な活動」「パラサイト分子」「ハイパーサイクル」「コミュニティ効果」「少数コントロール」

このキーワードは、春頃に、生命科学などを読んで得られたものです。もう一度思い出して、ITクラスター強化のための方策を考えるために挙げてみました。

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December 27, 2005

札幌ITクラスターの検討 その10

昨年作成した「有効な地域イノベーションシステムの構築」と題した論文で私が十分捉えきれていなかったことがあった。

それは、「地域」という言葉である。

この論文では、国のイノベーションシステムについての体制がほぼできあがり、次の地域のイノベーションシステムを構築することが重要であるとし、国は、地方自治体にもっと裁量権を拡大すべきであると述べている。

文部科学省が知的クラスター創成事業を実施しているが、そこでも、「地域の自立性、主体性」ということが言われている。では、具体的に「地域の自立性、主体性」とは誰のことだろうか。ここが問題なのである。

他府県は知らないが北海道の場合には、道庁は、神様みたいなものである。道庁には、競争がなく、独占企業なのだ。

おまけに、自分が裁量できる予算なら、もう少し寛容なのであろうが、お国から頂戴した資金を仲介者として流している立場である。このため、企業のなかで、中間管理職が上司の顔色を見て、部下に必要以上に細かく仕事をさせるのと似たような立場になってしまう。

文部科学省が「こんな風」にやるようにといったとしても、道庁は、「こんな風」をいろいろに解釈し、どんな指摘にも耐えられるようにと、全方位で仕事をするように実行機関に命じてくる。これは、道庁のだれだれさんが気が小さいというような個人攻撃ではないので、念のため。そうではなく、立場がそうさせてしまうのだ。

このため、本来の意図とは別に、無駄な仕事が非常に増えるとともに、本来の意図が忘れ去られてしまいかねない。

たとえば、文部科学省に提出する資料の作成にものすごく力を入れる。きちんとした資料を作ることが悪いわけではないが、それに数ヶ月も事務方全員が追い込まれる。また、5年間の成果をきちんと出さなければという脅迫観念があるので、無理やり成果を出そうと取り繕ってしまう。

地域のクラスターが持続的に発展し、そこから新しい事業や企業が生み出され、自立的な経済になることがそもそもの意図であったはずだ。しかし、書類作成と関係者全員の合意を得ることに時間を費やしすぎて、本来、IT企業の多くが何を考えているのか、ユーザ産業の企業がどのような課題を抱えており、そこにITがかかわれる必要があるのかどうかといった市場調査すらやれていない。

つまり、この事業に関わる偉そうな人々が山ほどいるために、こうした関わっている人の間のみをぐるぐるグルグル回っているだけで、本来活性化すべき地域産業(IT産業とユーザ産業)のところに回る余裕を少しも持てないのだ。

誰が地域の主役なのか、ここが忘れ去られてしまっている。

実行機関も、主役である産業界の方を少しも向かずに、道庁の顔色とその先のベールに閉ざされた文部科学省の顔色のみをうかがうという構図になっている。

道庁の職員も、大学の先生も、実行機関の職員も、すべてサラリーマンである。誰も本当のリスクを背負っていないのだ(せいぜい、出世競争というリスクがある程度だ)。このため、ややもすると、産業界に、ボランティアを求めすぎてしまう。これは、私自身への反省を含めてそうなのだ。

札幌エリアのIT企業は、言ってしまえば、吹けば飛ぶような経営体力の弱い企業ばかりだ。これらが、少しでも地域の体力を高めたいと思ってこの事業を誘致し、歯を食いしばってボランティアで協力している。しかし、道庁がお上として実行機関を叱り付け、そこが産業界に協力を頼むという形で、ボランティア協力を無理強いしてしまう。

目鼻の利いた企業は、こんな儲からないことへの付き合いはごめんこうむるということになる。協力してくれている企業は、地域への熱い思いがあるので、歯を食いしばって付き合ってくれている。

でも、これもヘンなのだ。

そもそも、地域のクラスターを強化することの主役は、産業界であるはずなので、産業界がリードするくらいでなければならない。だから、本当は、私のいる財団は、道庁を向いて仕事をするのではなく、産業界を向いてその代理人として仕事をしなければならないはずなのだ。そして、産業界は、自分達にメリットのあることだからと、実行機関を補佐し、道庁にもムリをお願いするという形であるべきなのだ。

産業界も産業界なのだが、日本では、昔から役所がサーバントではなくお上であるし、さらに北海道では、長くお上が支配した歴史なのだから仕方が無いのだが、どうも関係性が逆なのだ。

実は道庁だって、悪気があるのではないのだ。地域を活性化するために、国から事業を持ってきて、地域のために一生懸命になっているのだ。しかし、それがうまい方向に回っていかない。道庁は、実行機関がだらしないから、口を出さざるをえないのだという。実行機関は、何をやっても頭ごなしに怒られ、細かいところまで指示されるので、いじけてしまっている。どうせ何をやっても直されるのだからと自分でリスクを負って判断しなくなっている。本当は、産業界の代理人として、道庁に意見を言うなり、少なくとも、産業界にメリットになるように働きかけるべき立場なのに。

せっかく、それぞれの立場の人々が地域を良くしたいとの思いではじめた事業であり、税金を沢山つぎ込んでいるのに、どうしてこうなってしまうのだろうか。

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札幌ITクラスターの検討 その9

前にプロデューサ機能について述べたが、その折には、クラスターそのもののプロデューサ(オールボーのP教授)についてであった。これに加えて、産業界のニーズを把握する一方、大学等のシーズを評価し、両者を結びつけて事業化までの道筋をつくるプロデューサーも重要である。

岩手・花巻では、民間出身のコーディネーターによる熱心な産学連携事業が成果をあげていると評価されている。岩手ネットワークシステムがそれだ。INSという略称がいつも飲んで騒ぐから、最近では、いつかノーベル賞をさらうになっている、こうしたノリが羨ましい。

北海道は、最初のビズカフェが出来た頃には、ノリがあったのだが、今は、楚々としているというか白々している。誰も馬鹿になって騒がなくなっている。これはどうしてなのだろう。もっとも、ビズカフェ2は、ちゃんといろいろやっているのだが、これは産学連携が目的ではなく勉強会のようなのだから、まぁしょうがないのかな。

北大のリエゾンのA先生がINSを見習って、一生懸命馬鹿を演じてくれていて、経済同友会のHOPEが出来ているのだから、それなりの成果ではある。が、ITクラスターという面では、まだまだだ。

ITカロッツェリア事業に2人の科学技術コーディネーターが雇われており、彼らは民間企業出身者なので、彼らがこの事業だけでなく、もっと広く活動するようにミッションを変えれば良いのかも知れない。

サッポロバレーの誕生にあたっては、三浦さんという豪快な人がいて、彼が持ってきた仕事を当時の学生達にやらせたのが最初と言われており、結果として三浦さんがプロデューサというか仕事とベンチャーの橋渡しをしていた。

ITカロッツェリア事業の落としどころとして、現在、基盤研究を受け継ぐ複数の企業が名乗りを上げてくれている。そのうちの一社は、共同研究企業ではあるのだが、基盤研究を受け継ぐというよりも、プロデューサ機能を果たしてくれるという。

ここの社長は、現在は大学や企業を対象にシステム開発している企業の経営者であるが、もとトヨタのトップセールスマンであった。それも上級車種を扱っていたので、売り込みに行く先は、企業の経営者が多かった。そこで、経営者と話をし、その企業が困っていることを探し出して提案するといった営業スタイルが身についている。

彼は、売るのは、車でも、ITでも、同じであるという。

このことは、頼もしい企業が札幌ITクラスターに現れたといえるが、実際には、具体的な売り物が既にある訳ではなく、また、具体的にこうしたことを実現したいとか、これをITでかなえて欲しいというユーザ産業の確たるニーズを見つけ出しているわけではない。

多様な要素技術を持つ札幌IT企業と、おそらくさまざまなことにITを使ったら効率が高まる、あるいは付加価値が高まるのだが、そこまで頭が回っていないユーザ企業を見つけ出し、結びつければ可能性は開けそうだ。しかし、まず、どうやってユーザ企業を見つけ出すのか、具体的にどう結びつけていくのか、その最初の一歩、あるいは仕組の作り方がまだ見えていない。

現在、来年一年かけて、札幌IT企業が何を考えているのか、どんな仕事を増やしたいのか、どんな要素技術を持っているのかなどなどについて調べる必要があるだろうと思っている。

同時に、ユーザになってくれそうな企業を探し出すことも必要だ。まずは、農業や水産業、医療や福祉、あるいは観光など、北海道の強そうな産業について、面白い企業を見つけ出し、彼らとじっくり話しながら、課題や問題点を探し出す(ITで解決できることを探し出す)ことが最初の一歩なのかもしれない。

もちろん、お客は、北海道に限らないが、まずは、積み上げていくことだろう。そのなかから、ある程度成長しそうな分野があってくれれば万々歳だが、一品生産で終わってしまうものかもしれない。それでも、何か要素技術が付け加わっていくなら、それも最初の一歩としては良いのかもしれない。

そして、前に述べたように、せめて北大の情報科学研究科の先生を訪ね、面白そうな研究テーマとそこにIT企業が絡んだほうがよさそうなものを見つけ出す。あるいは、農業や医学などの先生を訪ねて、研究にITが意味を持つかどうかを探る必要もあるだろう。

単なるデータベースではなく、事業化に役立たせることを前提としたこの3つのDBづくりから、まずはじめてみようかと思うのだが、どうだろうか。DBづくりではあるのだが、まずは、鼻を突き合わせて話してみることである。

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札幌ITクラスターの検討 その8

前の記事の続きだが、北大情報科学研究科には、バイオインフォマティクスなど生命人間情報科学専攻がある。こういう研究に地元IT企業がパートナーとして入り込んだりしているのだろうか。地元IT企業は、すぐにお金になりそうもないことには、手を出せる余裕はないのだろうか。先生方が得た研究資金で地元IT企業が手伝うという姿の可能性は意味がるのだろう。

ともかく、IT企業が自発的にモード2の場を作り出そうという動きは生まれないものなのだろうか。

また、北大には、戦略的な研究について、期間を区切って各部から独立させ、また学際的に研究することもできる創成研がある。ここでは、ナノデバイスの研究などがなされているようだ。海洋汚染や生体材料の研究などに、地元IT企業がかかわれる余地はないものなのだろうか。

この辺り、IT企業が絡む意味があるのか、絡むと双方にメリットがるものなのか、可能性と必要性を細かく検討する必要がありそうだ。

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第四の起業文化の醸成については、北大R&BでMOT講座をはじめたりしはじめている。また、小樽商大に出来たMBAの受講生の半分くらいが技術系というので、少し歩みはじめたと行ってよいだろう。

第五のインキュベーションインフラの充実は、基本的には、札幌エリアには整っている。ただ、①創業間もない起業家向け廉価な部屋貸し、②起業家講座、③技術評価、④経営相談、⑤資金戦略、⑥知財戦略、⑦メンター、⑧エンジェル、⑨アーリーステージでの投資、⑩マーケティング・法律・会計等の専門サービス、⑪国際市場戦略がつながって提供されていない。北大R&Bが具体化し、そこに行けばすべて相談できるような形になっていれば、もっと良いと思う。

その1からその8までは、昨年の論文で必要条件としてあげた項目を再検討してみたものである。

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札幌ITクラスターの検討 その7

ところで、いつも不思議に思うのだが、北大でITクラスターの窓口になっているのがY教授であり、彼が必要に応じて、いろいろな先生を紹介してくれるのだから、それで良いのかもしれないが、IT企業の集まりなどに、どうしてもっと若い助教授や助手の人たちがやってこないのだろう。

北大大学院情報科学研究科のリストをみるとざっと数えて164人の教官がいるのに、ITカロッツェリア事業をやって数人の先生を存じ上げているが、それ以外の情報科学の先生と触れたことがない。私は、地元の方以上に、いろいろな集まりに顔を出しているほうなのだけれど。

先生方が地元IT企業に興味がないのだろうか。

それとも、個々の研究などを通して、個別には、地元IT企業とのつきあいがあるのだろうか。

北大を卒業した情報科学の人たちは、皆東京の大手に就職してしまうのだろうか。

スウェーデンのIDEONに行ったときに、ここでは、ルンド大学と地元のIT企業との間で、学生のインターンシップの受け皿、学生の卒論の手伝いなどを企業がしてくれるとともに、企業の研究者が大学にパートタイムで教えに行くなどの交流がさかんであった。また、オウルでは、オウル大学とノキアとの間で毎年会合があり、大学が現在やっている研究を発表するとともに、ノキアが考えている技術マップを提示し、協力できるところを話し合う機会を設けていた。また、次の技術の展開に必要なカリキュラムを設けたり、必要であれば、教授をヘッドハントしてくるなどのことも地元産業界とやっていた。

確かに、ノキアやエリクソンなど、それぞれ大手が育っているからこそできるのかもしれないが、こうした交流が札幌でも欲しいものである。

札幌のIT企業には、こうしたニーズはないのだろうか。大学と企業との両方に、こうしたことの必要性を訴えるとともに、私が描く姿が札幌では互いにギャップがありすぎてムリなことなのかどうかも聞いてみなければならない。

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札幌ITクラスターの検討 その6

もう一つ大切なことがプロデューサー機能の充実である。

私が昨年論文を書いたころに思っていたプロデューサーというのは、デンマークのオールボー大学のP教授をイメージしていた。大学を経営するという観点に立って、地域の資源とポテンシャリティを勘案したテーマを考え出し、ロビー活動をし、世界中から必要な人材や資金を地元に集めてくることができる人材である。P教授は、オランダの大学からスカウトされてオールボーにやってきた。

オールボー大学の学長は、産学連携については、P教授に委ねているという感じであった。P教授は、イメージから言うと高潔な象牙の塔の学者という感じではなく、やり手のブローカーのようなイメージである(悪口ではないので念のため)。

彼は、無線分野で研究所を設け(この地域が無線クラスターであるため)、EUの大きなプロジェクトを獲得する一方、サムソンなどの世界の大手から研究資金を獲得したり、世界中の大学からポスドクなどの研究者を集めている。

もちろん、この地域には、無線関係の大手企業が研究所などを設けている。これは、無線技術者が多いので、企業がこの地にやってきているのだが、これもこの大学があればこそである。

この地域では、NOVIというオウルのテクノポリスに当たるところが、インキュベーション機能のほか、誘致なども行っている。札幌エリアでは、北大リサーチ&ビジネス構想(以下北大R&B)があるので、この中核機関が誘致にも力を入れることになるのだろう。

もし、札幌ITクラスターを強化するなら、北大の産学連携の柱としてITを認知させ、大きなプロジェクトを誘致したり、大手企業の研究資金を取ってきたり、世界中からポスドクなどの研究者を呼び込む必要がある。

しかし、一口にITといってもいろいろあるなかで、大学教授間にも競争があり、どれをメインにするかで揉めてしまいそうだ。地域のITクラスター発展のために、組むと良い先生やテーマは何なのだろうか。

ところで、北大でITというと、いつも窓口になってくれているのがY先生だ。Y先生は、企業との連携、地域との連携の意味もよく分かっているのでムリをお願いしやすいらしい。しかし、先生の専門は、確か画像情報処理だ。もし、大々的に組込系を売りにするなら、本来の専門分野ではないのではないだろうか。また、組込系ソフトウェア開発で、大学の研究分野でどんな分野と組むと発展性が高まるのだろうか。

ITの専門家には、こうしたことが分かっているのかもしれないが、ITクラスターを強化するために、ITのなかでもどの分野に焦点を絞るのか、その分野を強化するためには、どんな研究分野をコアにする必要があるのだろうか。こうしたことを戦略としてちゃんと詰めて議論すべきなのではないだろうか。

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December 26, 2005

札幌ITクラスターの検討 その5

第三にイノベーションインフラの充実である。

イノベーションインフラとして、①研究型大学・研究機関の設置、②モード2の知識生産の場づくり、③プロデューサー人材の獲得、④クラスターが求める人材育成・学部設置をあげた。

札幌エリアには、①は、それなりにある。問題は、②のモード2の知識生産の場づくりだ。

現在のITカロッツェリアは、メンバーが限られているものの、モード2の知識生産の場を提供している。札幌ITクラスターの担い手は、かなり顔見知りである。とはいえ、それなりに目的を持って産学が集結することが必要である。

今回も当初は、CAD・CAEの研究者が組んだ相手は日立製作所や富士通であったが、途中から地元企業を入れるようにした。地元企業にとっては、このプロジェクトを通して、大手企業や研究者と知識交換が出来たことは、成果物そのものの開発よりも、有益であったようだ。

これは、国のお金でやれた事業だが、常日頃、こうした国の政策的な資金であれ、企業が出す資金であれ、モード2の知識生産の場が作られやすい環境にしておくことが重要だ。

だが、特に核になるような大手企業がいるわけではない札幌ITクラスターの場合、誰かが常に仕掛ける必要があるのかもしれないが、はて、それは誰なのだろうか。

フィンランドのオウル市の場合には、テクノポリスが国の競争的資金を獲得し、それを地域の産学に振り分けていた。

これを札幌に置き換えれば、私のいる財団ということになる。現在、たまたま知的クラスター創成事業において、こうした役割をしているが、そうではなく、恒常的にそうした役割を担う財団に本来なるべきなのだろう。

もう一つは、前の記事で書いたように、ニーズ産業とITクラスターとの間でモード2の知識生産の場が生まれることである。ここには、ニーズ産業の研究者、企業、そしてITクラスターの研究者、企業が集まることが望ましい。

たとえば、農水省のプロジェクトに、ITクラスターの研究者や企業が参加する、厚生省のプロジェクトにも参加する、といった仕掛けが必要である。こういうつなぎを誰がするのかだ。これも、やはり最初は、上記のような国のプロジェクトなどを活用して、ケースとしてのモード2の場をまずは作ってしまうことが必要だろう。

札幌では、道庁の役人、経産省の役人、道経連と北大の産学連携担当教授などなどが私的に開催している集まりがある。こうしたなかには、ITクラスターにとってのニーズ産業の分野の研究者や企業の部長クラスも出席しており、その気になって話をしてみると、彼らがこれからやろうとしている面白い話がころがっている。

ところが、残念ながら、こうした集まりでITクラスターの企業関係者にほとんどあったことがない。おっちょこちょいの私が繋げればよいのだろうか。私よりやはりIT企業の経営者がその場に居て、これなら俺がやる、あるいは、それなら○○さんが適任だなどと話をしたら、すぐにいろいろなプロジェクトが生まれそうだ。

IT企業の経営者は、こうした場所にまで出てきて、仕事を得る必要性を今は感じていないのかもしれない。モード2の知識生産の場があったらよいのにと思っているのは、私くらいなのだろうか。

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December 25, 2005

札幌ITクラスターの検討 その4

ユニバックが最初の商用コンピュータを作ったのが1951年なので56年前、パーソナルコンピュータ「アップルⅡ」が発売されたのが1977年なので30年前、これがネットワークで結ばれ、一般の人がアクセスできるようになったのは、アメリカでも1990年代に入ってからのことである。1995年として12年前。

エジソンが白熱灯を発明したのが1879年であったが、幅広く使われるようになるには、電力網がいきわたる必要があった。電気洗濯機、電気掃除機、電気冷蔵庫が登場するのが1900年代の最初、これらが爆発的に普及するのは、1940年代にかけてであった。新しい技術が発明されても、インフラが整ってなかったり、古い技術で設備投資したばかりであるなどにより、本格的に普及するには、40年以上かかる。

したがって、ITは、まだこれから数十年かけて普及していくのであろうから、まだまだ、革新はあると思われる。しかし、その革新のかなりの部分は、ものすごく画期的なものではなく、ニーズに対応するなかで、組み合わせやファイン化が図られていくものなのではないだろうか。

したがって、ITを使った技術革新は、多様な分野で使われることによって起きてくると思われる。

つまり、ITクラスターの高度化は、ITの研究者だけではおそらく駄目で、たとえば農業とか建設業とか自動車製造業とか、そういうITにとってのニーズ産業(お客)との連携が不可欠と思われる。

技術的なことはよく分からないが、携帯電話の要素技術は、ある程度分かっていることで、これが爆発的に普及し、インターネットとつながるなかで、新しいOSが開発されたり、薄型・小型化やセキュリティが求められるなどなど、さまざまな技術進歩が起きたのだと思われる。

現在、自動車のコストの3分の1はエレクトロニクスであるという、ハイブリッドカーになると、その比率は5割くらいに達していると言われる。自動車は、排ガス規制や省エネ化を通して、エレクトロニクス化されたが、さらに、カーナビなどを通して、通信機能が付き、自動車がネットワーク化され、端末になりはじめている。おそらく、このなかで、また新しい技術革新が起こるに違いない。

札幌ITクラスターは、こうしたニーズ産業に使われるなかで、新しい要求に対応しつつ開発に参加していくことが望まれる。

日本は、携帯電話王国であるが、クアルコムもシンビアンも生まれていない(そういえばTRONは生まれた)。

ITは、まだまだいろいろな分野で使われる。ユビキタス社会も到来する。札幌ITクラスターは、農業や医療や福祉や観光など身近なものでもよいから、まずはニーズ対応してみて、その利用が広がり、高度化していくなかで、新しい技術開発が出来るようになるのが望ましい。

ただ、そうなると、センサー技術やメカニカルな技術が必要になってくる。

ホンダがASIMOを開発しているが、ロボットを開発すると、おそらく沢山のセンサー技術や柔らかいメカニカル技術が生まれているはずだ。柔らかいというのは、自動車のように時には人を殺しかねない硬い技術ではなく、人の側に居て人に優しく接することを前提にした技術である。卵をそっとつかむような技術だ。これには、ソフトウェアも大切であろうし、バネとかアクチュエーターなども硬い技術とは異なっているに違いない。

残念ながら、札幌エリアには、こうしたセンサー技術やメカニカルな技術の蓄積が無い。しかし、必要性が明確になれば、技術のあるところと組めばよいだけの話だ。

ITカロッツェリア事業では、基盤研究と応用研究とがあって、最初は、基盤研究がまだ出来ないため、まず応用研究からはじめたのだが、応用研究が散漫(研究者の好き勝手)に行われてしまったため、途中から選択と集中で応用研究を切り捨て、基盤研究に予算を重点的に配分してきた。

これはこれでよいとして、おそらく次には、ニーズ産業の要望に応えての商品開発を続け、そのなかから、可能なら、クアルコムやシンビアンのようなある分野のOSであるとか、あるいは、柔らかいソフトウェアでデファクトを生み出すといった戦略が必要になるのではないだろうか。

いわば、応用研究のこれでもかこれでもかの開発を積み重ねることなのだが、少ない予算や前向きな企業がまだ少ないなかでは、戦略的に、成果のあがりそうなものを手がける必要がありそうだ。

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札幌ITクラスターの検討 その3

組込ソフトウェアでは、使い勝手が良いものを開発することが重要である。

試作品が出来てから使いにくいと分かってやり直すよりも、開発の最初の段階からユーザビリティ(使いやすさ)を考えて開発し、途中でもチェックできたほうが結果として速い開発につながるという考え方がある。

このため、札幌ITカロッツェリアでも、ユーザビリティソリューションを事業の柱の一つとしてきた。

この考え方は、組込系ソフトウェアだけでなく、たとえば、使いやすいHPといったように、組込系以外のソフトウェア開発にも応用可能である。

ITカロッツェリア事業が組込系というごく一部の企業のためのものではないということを知らしめるという意味もあって、ユーザビリティ・ソリューションを幅広く応用する動きも出ている。

当面は、北海道庁がHPのリニューアルの際に、ユーザビリティを考慮することを条件にしたため、札幌IT業界では、ユーザビリティ学習熱が高まっている。

また、来年春には、札幌市立大学が開校するが、そのデザイン学部では、感性工学を柱にしており、使いやすいだけでなく、使うとわくわくするといったユーザエクスペリエンスを学んだり、産学連携でやりたいと考えているようだ。

札幌市は、これまでもIT産業育成をしてきたが、最近では、コンテンツ系を重視し、育成に力を入れている。ユーザビリティやユーザエクスペリエンスは、組込系に加えて、HP製作やゲームなどのコンテンツ系への広がりを見せている。

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札幌ITクラスターの検討 その2

第二に、地域資源を活かせるクラスターへの選択と集中である。

前述のように、一口にITクラスターといっても多様である。

当初、札幌ITカロッツェリアでは、組込系のIT企業を対象にしていた。組込系というのは、家電製品や産業機器に組み込まれた特定の機能を提供するためのコンピュータシステムを組み込みシステムと言い、これを動かすソフトウェアを組み込みソフトと言っている。

昔は、限られた利用範囲であったようだが、最近では、ほとんどの機械にソフトウェアが組み込まれるようになっている。

組込系の代表が携帯電話であり、最近では、カーナビやハイブリッドカーなど自動車分野が大きな地位を占めるようになっている。しかし、それだけではなく、テレビ、ビデオ、エアコンから、デジカメ、コピー機、お風呂、魔法瓶、炊飯器などなど、ほとんどのものにコンピュータシステムが組み込まれており、それを動かすソフトウェアが組み込まれている。ユビキタス社会の到来もあり、今後組込系ソフトウェアの市場は拡大すると期待されている。

しかし、組込系は、現在、大きく二つの問題に当面している。一つは、ある程度定型的な開発や量産物に関しては、アジアなど海外に仕事が流れていることだ。もう一つは、携帯電話や自動車関連のように、大きくて複雑なシステムが増えそれをどのようにマネジメントしながら開発していくかという問題である。

このうち、後者は、トヨタやNECなど大手メーカーの開発にかかわる問題であり、その下請けや一部を分担している札幌エリアのIT企業が独自で何に取り組まなければならないのかは、私にはまだ見えない。

前者については、札幌エリアのIT企業にとっては、直接仕事がなくなることを意味しており、これに対応するために、自ら独自開発する仕事を増やす必要があると言えよう。

札幌ITカロッツェリアは、そのためのツール(共働で仕事をしやすい開発環境づくり、試作品をすぐに作れるためのソフトウェア開発とハードウェア開発の連携など)を用意するという位置づけで始まった。

札幌エリアのIT企業で、自らが組込系であると意識している企業は、1割ぐらいであるというが、組み込みの仕事は、実質的には売上高の3分の1くらいを占めているとみられている。

また、札幌エリアのITクラスターの顔として知られている企業の多くは、マイコンが出た頃のマイコン少年からスタートしていることもあり、組込系で相対的に競争力があると言われている。

しかしながら、どうしても組込系は全体の一部であるとの認識から、ITクラスター全体の事業として認知されていないという問題がある。

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札幌ITクラスターの検討 その1

昨年第三者として書いた地域イノベーションシステムについての2つの論文を、現在のITクラスター強化担当者として、読み直してみた。

当時に比べ、いくつかの進展も見られるし、次にやらなければならないことも明確になりつつある。一方、認識の間違いもあった。これらについて、以下検討することにしたい。

まず、必要条件としてあげたものを検討する。

第一に、変革への意思統一である。地域の産学官が知識経済への転換が不可欠であると認識し、同じ方向に向かって行動することである。

これについては、地方自治体の財政悪化(地域経済の自立化)、国立大学の独法化(自ら稼ぐ、地域との連携)などから、行政と大学は、少なくとも、危機感を感じており、なんとかしなくてはという想いが出来ている。もっとも、具体的に機敏に動くということからは、まだ遠い。

問題は、北海道の経済界とIT産業の姿勢である。ITカロッツェリアの事業に係っている数社の経営者は、クラスターの重要性を理解し、自社のことだけでなくクラスターの底上げが必要であると認識している。

しかし、私の認識では、これがまだ地域の多くのIT企業間で共有されていない。

北海道のIT産業は、アンケート対象1200事業所、売上高では3000億円を超え、働く人は1万7000人を超える。売上高では、鉄鋼業に次ぐ第六位、従業員数では食料品製造業に次第二位である。

ちなみに、この数字は、ワイヤレス技術者が3000人もいるので、デンマークのオールボーが無線技術のメッカの一つになって大手企業を呼び込んでいることから考えても大きな規模である。

しかしながら、札幌エリアに集中しているIT企業の多くが、クラスター強化について必ずしも一致した考えに至っていない。確かに、これまで分裂していた業界団体がIT推進協会に統合化されたことは、大きな進歩である。

だが、IT推進協会が実を生み出すのはこれからだし、ITの業界団体が、既存の大手企業が参加している北海道経済連合会の一員として認められるのは、まだこれからの段階である。

札幌エリアのIT企業は、一口に3000億円といっても多様で、企業向けのシステム構築を図るところや、大手企業の下請けをしているところもある。コンテンツ系もあれば、独自製品を開発している企業もいる。このため、それぞれがバラバラだ。今のところ、自社の経営を考えることで手一杯といったところだ。

この企業群にクラスターが強化されると、自分にとってもメリットがあると知らしめ、地域貢献をしようと思わせる仕掛けが必要だ。もちろん情念でやってくれる人もいるだろうが、そこはやはり経営者なので、儲かるとか、知名度があがるといった直接的なメリットを分からせなければならない。

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