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January 03, 2006

産学連携学事始め5

○わが国の産学連携現象の引き金となったのは、シリコンバレーモデル。この成功のキーワードが「産学連携」と「起業家精神」。日本は、これに習い、大学に企業との連携を任務とするリエゾンオフィスを置き、TLOを設置し、知財について日本版バイドール法をつくり、VCが活発に活動しはじめた。これらの動きはベンチャー企業の設立に有効に働いたのは確かである。

○しかし、日本では、ハイテク企業の集積は東京一極集中の傾向があり、地域テクノポリスはなかなか生まれてこない。その理由として、資金や経営ノウハウの脆弱性と共に、起業家精神が弱いことがあげられている。99年のグローバル・アントレプレナーシップ・モニターによれば、先進7ヶ国にデンマーク、フィンランド、イスラエルを加えた10ヶ国中、日本の起業家精神の指標は、最下位から二番目という低いものであった。最下位は、実はフィンランドである。

・フィンランドが最下位とは知らなかった。ただ、以前訪問した折、「やはり大企業が生活が安定していてよい」、「起業家精神のある人はアメリカに行ってしまう」という意見を聞いて、なんだそうなのかと思った。

○ノキアで名高く、経済競争力も世界トップクラスにランキングされているこの国では、どのようにしてテクノポリスが形成されたのだろう。米国とフィンランドを、国家インフラ(集中型か分散型か)と社会文化(リベラルか保守的か)という指標で分類すると、米国は分散・リベラル、フィンランドは集中・保守となり、後者では、地域イノベーション推進のためには、国としての政策が必要である(斉藤尚樹氏ほか地域イノベーションの成功要因及び促進政策に関する調査研究、文科省、04年)。

○ノキアを要するオウル市のテクノポリスは、オウル大学とオウル市・民間・国の開発基金の出資による公開有限責任会社であるテクノポリス、および研究開発センター(VTT)の三社を基本骨格としている。テクノポリスは、設立当初、企業に産学連携機能を提供するレンタルラボ的なものであったが、現在では、管理会社の機能を持つ。国との連携も緊密である。

・公的な資金が入っているいわば第三セクターなのに、株式公開してしまうところがすごいなぁと思った。オウルの経済活性化、雇用拡大のために設立された機関なのに、株式公開して得た資金で、首都のヘルシンキ近くに進出したり、インノポリという首都圏にあるサイエンスパークをも買収した。オウル市民だったら、なんだかだまされたような気がしないのであろうか。札幌の経済活性化のための機関が東京に進出してしまったら、結局人材が流出し、一極集中を促進することにつながってしまいそうに思える。それとも、市民が皆動こうとしないので、情報のみが行きかいやすくなって良いのだろうか。

北欧では、ある地域で成功したモデルを他地域にも展開するとか、国の政策に取り入れることが良くあるが、これも、オウルで成功したので、全国展開することを国が支援(促)したのかもしれない。テクノポリスをはじめとする多様な機関が切れ目のない支援をしており、確か海外市場へのマーケティングまでやっていたと記憶する。国をあげての支援とはいいながら、当初はオウル市の政策であったのであり、札幌のことを考えると、第三セクターであるテクノポリスが何故これだけの実績を上げられたのかが不思議だ。

○貿易産業省下に技術庁があり、大学、公的研究機関、企業における開発研究への融資を行うとともに、州ごとに他の省庁と融合した地域雇用経済活性センターを持ち、各地域できめ細かな支援を行っている。最後のステップとして、企業に対する資金援助にも国営ベンチャーキャピタルとでも言うべき機関(SITRAほか)が機能する。

○このように、フィンランドでは、地域行政、国レベルの行政が一体となり、民間、大学との間に切れ目のない支援システムが出来上がっている。シリコンバレーとは大きく異なるシステムである。

○産学連携の先進地域に学ぶことは有効ではあるが、その国・地域の風土や人々の気質を無視することはできない。「比較産学連携学」では、出来上がった形のみを知るのではなく、それを成立させた条件を探りださなければならない。国と地域の性質を見極めた、「産学連携政策論」を民間と大学が積極的に提言することが必要である。

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