シリコンバレーの奥義
第二章では、「奥義」が書かれている。
一般には秘密で手に入れることが難しい重要な組織の知識が、クラスターの中では良く知られているという説(空中の奥義)は、シリコンバレーにいると共感できる。・・・サッポロバレーには、こうしたことはあるのだろうか。親しい経営者同士ならあるのかもしれない。それが働いている人、学生などなどにまで広がっていないように思われる。ゴルフはするし、飲み屋は同じなのだけれど、仕事に関係のあることや知識などはどうなのだろうか。
競争相手が何をしようとしているか、ある仕事に対してどの企業が優秀か、どの企業が信頼できるかなどの情報を得るのは難しくない。これはやる価値がある仕事かどうかの判断。新しいチャンス。何が欠けているのか、何が生まれつつあるのか。・・・これらはどうなのだろうか。
新製品の発表や特許取得:同じ時代精神の中で同じような問題に取り組んでいる人には、その情報が持つ意味がよく分かる。その結果、先制措置を取ることもできる。このサイクルによって、地域全体が先端的になる。
マーシャルの奥義(ミステリー)は、製造業の研究からなされており、ギルドや協会、職人ネットワークなどを指していた。縄張り。ミステリーは、身体にしみ込んだ暗黙知の具体化である技能や熟練などを指すことばでもある。マーシャルは、それをつかう機会を与えられるなど、現場で習得するような知識が空中にあると言った。
この2章の著者、ジョン・シーリー・ブラウンとポール・ドゥグッドは、このミステリーは、どこへ知識が流れ、どこへ流れないかの限界を示すといっている。シリコンバレーで重宝されるような情報は、人々がその知識を活用できる技能、熟練や実践に接していなければ、そう簡単に広まるものではない。共有化された実践がなければ、知識が伝播することは難しい。「粘着性」。工場を見学しても、見たものを活用するために必要な基盤となる実践を共有していないから。
ロータスノーツなどのグループウェアがコミュニケーションのための能力を提供しても、それを実践することを広めるのはたやすくない。逆に、実践を広めることが活用できる知識を広める鍵となる。
活用できる知識と無味乾燥な知識。活用できる知識は実践から来る。新しい発明やアイデアは、実践のなかから生み出され、その実践を共有する人々の間で最も伝わり易い。ワトソンとクリック(+無名の協力者)。
実践の共同体(Lave+Wenger):親密な共同作業を伴い見識や判断を共有する小グループは、その実践の過程で必然的に知識を発展させ、浸透させる。しかし、それは短所でもあり、共同体の外から知識を手に入れることは難しい。知識は、実践の共有が終わるところで行き詰る(印象派の画家同士のみ)。実践は理論に先んずる(見慣れると理解される)。
企業は、情報コストがかからないのではなく、異なる実践に基づく多様な共同体の集合体である。異なった意味解釈システムを持つ。このような状況のなかで知識を伝播させるのは難しい。知識の伝播という観点からみると、企業組織の長所は、知識の流れのコストをゼロにするのではなく、異なるグループ間に知識が流れるようにするための高い初期コストを喜んで負担するところにある。
知識の流れに対する内部の障壁。革新は、多様な共同体の独創的な組織をつなぎ、市場に提供できるまでにしっかりと洗練されたものを作り出す系統だった過程である。革新的な企業は、科学者とエンジニア、エンジニアとデザイナー、デザイナーとマーケティング担当者というように、多様な共同体を寄せ集め、それぞれの異なった実践と信条体系を調和させることによって成功する。だから、一つの共同体しかない企業は、複数の共同体を持つ企業よりも、発明から新製品の開発までの過程をたどる備えが足りないといえる。
企業の内部で行き詰ってしまう知識が外に流出する。その知識を門前で待ち構えているVCが道筋を用意しているので、企業が内部の調整機能をより早く効率的に作動させないとその知識をすべて失いかねない。
知識は、雇用主を超えて、地域のなかにある同じような仕事をする人々を結びつけている組織に流れていく。この組織を「実践のネットワーク」と呼ぶ。実践の共同体とは異なり、必ずしも一緒に働いているとは限らない。病院や大学の血液の研究ネットワークなど。ML、学会誌など。顔を見たことがない広がりの場合もあるし、クラスターのように近接していることもある。クラスターだと実践のネットワークからすぐに行動がうまれやすい。
局地は、知識の移動コストを下げ、流動性を高める。地理的にも分野的にも近い人々は、そのアイデアが何を意味し、それをどのように活用すべきかを分かってしまう。
スピンアウトだけでなく、スピンインもある。ビットバレー企業はこれが盛んだが、札幌では、アウトはあるがインはない。大企業がいるからスピンアウトもインもあるのだが。仲間内で小さく別れているだけである。
パットナムのような共同体からではなく、信用は、実行から生まれる(コーエンとフィールズ)。信頼できる実践は、共同体やネットワークを構築し、そこから信用が生まれる。
マトリックスではなく、生態系である。全体の環境に好ましいことが、必ずしも個々の企業にとって良いこととは限らない、死ぬ企業もある。情報が流れ出ないように孤立すると死ぬこともある。生態環境を養う企業は、生態環境から養われている。
知識の生態系が参加者の間に接点を作り、それがクリティカルマスに達して自立的な活動力を得るまでに時間をかけて発達してきた。これは経路依存性があるので、簡単に真似られない。
「なぜ」「どこで」というマーシャルに欠けている集積について論じたこの箇所は、今日は紹介にとどめるが、「知識が実践を通して伝わる」という重要なポイントを指摘している。これは、サッポロバレーを強化するにあたってのヒントになりそうな気がする。
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Comments
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Posted by: Levi | August 04, 2015 07:42 PM