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January 02, 2006

産学連携学事始め1

北大で産学連携の窓口を担当し、最近では、産学連携学会会長に就任した荒磯先生が日刊工業新聞に「産学連携学事始め」という連載を始めた(2005年6月7日から)。まずは、気になるところを紹介しておこう。

○「産学連携」という言葉が使われ始めたのは96年から。使う人によって異なっている。以下いくつかを紹介。

・野村総研「大学と産業界の間で、人材面や研究面などを中心とした広範な交流活動であって、具体的には共同研究、人材育成・交流、技術移転があげられる」と定義している。

・京大国際融合創造センターの澤田芳郎氏「産学連携の本質は、産学間の深い知的交流に基づく新しい価値の発見であり、その具体化である」と定義している。

・ある国立大のTLOサイト「現在の産学連携は奨学寄附金、受託研究、共同研究が3本柱です」と記している。

○「産」と「学」という目的も文化も違う二つのドメインが手を取りあって「こと」を進めようとしているのに、思い描いている産学連携のイメージがこうも違う。

・荒磯「科学技術を基盤とし、社会の文化と経済を活性化させる活動」と定義している。

・これでは、大学における科学技術の蓄積を「産」側に持っていくだけではないかと見られそうだがそうではない。「学」は放っておくと際限もなく専門化し、先細りになる傾向を持つ。一方、「産」の活動は人間の生活を豊かにするためのニーズの実現を抜きにしては考えられない。このニーズが黒船のように「学」に新たな科学の領域を形成するきっかけを与える。

・異なる専門分野が融合し、新たなイノベーションが「産」に貢献するとともに、「学」も新たな領域を発展させることができる。

○新たに生まれた技術を製品化につなげ、事業として成立させるためには、技術を知的財産として権利を確立するとともに、開発研究の資金、事業化への資金が必要となる。世界の産学連携の成功例をみると、ファンドが需要な役割を果たしている。

○さらに、以上述べてきた「産学連携」は、それを効率よく展開できる環境が整ってこそ初めて可能になる。これは、「官」の重要な役割である。

○産学連携の持つ範囲がここまで広がると、それを進めるための人材の育成が当然問題となる。

○これらを総合的に理解するうえで、図に示すような「産学連携学」とその構造を考えてみるのも一つの方法であろう。

○産学連携学の構造(図:図には矢印があるがここでは、項目のみあげておく)

・基礎産学連携論(①産学連携構造論、②比較産学連携論、③企業イノベーション論、④知的財産活用論)

・応用産学連携論(⑤産学連携教育論、⑥産学連携政策論、⑦産学連携システム論、⑧知的生産プロセス論)

産学連携学は、まさに「産学連携によって文化と経済を活性化させる」という目的を効率よく達成するにあたってのプログラムを考えることであり、人工物システム科学である。

産学連携というシステムを構成するのが上記の(とりあえず)8つの分野であるとして、この一つ一つについて、どのようなプログラムで現在動いており、それをよりよいプログラムにすることを考えていけばよいのだろう。

①産学連携の構造は現在どうなっていて、どのように動くようにするのが望ましいのか。担い手である産学官の役割分担やふるまいは、どのようであるのが望ましいのか。

②北大のA先生を巡る産学連携の仕組みと岩手大のB先生を巡る仕組みとに違いがあるとしたら、何が同違うのか。

③企業がイノベーションを起すにあたって、学がどのように関係すると最も効率が良いのか。

④知財はどのようにしたら、活用しやすいのか。

⑤どのような人材がいると、産学連携の効率が高まるのか。それはどうやって育てたらよいのか。

⑥産学連携の効率を高めるためには、どうような政策が必要なのか。切れ目のない支援をするにはどうしたらよいのか。上手いマッチングをどうやって可能にするのか。モード2の知的生産の場をどのようにつくりあげるのか。

⑦産学連携のシステムはどのようにあるのが良く、どのように動くのが良いのか。

⑧そもそも知的生産は、どのように行われ、どのような条件が揃うと、最も効率が良いのか。

・・以上の①から⑧は、荒磯先生があげた産学連携に関する部分的な論について思いつくままに内容を記してみたものである。思いつきなので、間違った場所に書いてあるかもしれない。荒磯先生のコラムのどこかに今後書かれるのかもしれない。修正することを前提に、とりあえず書いてみた。

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