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June 07, 2007

クリエーティブ・クラス

リチャード・フロリダのクリエーティブ・クラスにちなんだ特集号がハーバード・ビジネス・レビュー日本語版の2007年5月に組まれている。

3つの記事があり、一つが編集者によるインタビュー(日本向け内容)、第二がHBR英語版の2004年10月号の翻訳(アメリカ向け内容)、第三がクリエーティブな人材を活かしている企業事例としてSASを取り上げたもの(HBR英語版2005年7・8月号の翻訳)である。

まず、第二については、時代がクリエーティブ・クラスを必要としているのに、ブッシュの政策もあり、こうした人材が逃げ出していることに将来的な危機感を感じて書かれたものである。アメリカの政府・政党は、産業構造の変化を認識し、クリエーティブな人々が集まってくるような仕掛けを整えるべきであると提言している。

これまでは、世界のなかでは、アメリカがダントツに世界中のクリエーティブな人々を引き付けていたのに、ブッシュの政策でビザがもらえないなどの問題から、留学生やクリエーター達が入国できないため、それに代わる英語圏(イギリスやオーストラリア、カナダやニュージーランド)に向かっていること。中国やインドなどが経済成長し、自国に優れた大学などを得るようになったことなどを挙げている。

もう一つは、日本のように、製造業やサービス業で働く人々を単純労働者から、大多数の創造性を引き出せるように移行する方策を模索すべきだといっている。

以下、気になる数字(なお、9.11は2001年);

・アメリカには、フロリダが言うクリエーティブ・クラスが3800万人いる。その労働者の比率は30%を超える。その賃金所得は、全体(約2兆ドル)の半分近くを占め、製造業とサービス業を合わせた金額にほぼ相当する。

・高等教育を目指す人の数が増大し、VCが立ち上がり、Vが産まれる道が開かれた。オープンな概念が広まり、表現の自由が新しい技術や文化の生成と発展に寄与した。

・世界中から優れた能力を誘因する力があった。移民の力。外国生まれの移民の数は3000万人を声、全人口の11%を占める。

・総人口に占める移民の比率では、カナダ18%、オーストラリア22%のほうが高い。

・労働力人口に占めるクリエーティブ・クラスの比率がアメリカより高い国が複数ある。グローバル・クリエーティブ・クラス・インデックス(GCCI)を比較すると(25ヶ国)、アイルランド33%、ベルギーとオーストラリア30%、オランダ29%、・・でアメリカは11番目(技能者を含まない)。

・技能者を含むと、オランダ47%、スウェーデン42%、スイス42%・・8ヶ国で40%を超える。

・数ヶ国でCCが上昇している。ニュージーランドでは、91年の18.7%から27%に、アイルランドでは33%へ。

・ビジネスウィーク誌による2004年度IT企業でもっとも競争力のある企業攘夷25社のうち、14社がアジアで、アメリカ企業は6社であった。(要チェック)

・科学論文では、88年にアメリカの学者が発表した論文は17.8万件で、全世界の38%を占める。しかし、2001年までにEU諸国がアメリカに取って代わった。物理学では、83年には61%であったが、2003年には29%になった。

・2004年秋の入学に対する留学生の出願件数が32%も減少した。中国76%、インド58%も前年に比べて減少した。

・イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、日本の五カ国で、アメリカよりも11%多い65万人もの留学生を集めている。

・サクセニアンの推計によれば、シリコンバレーのハイテク企業のうち、中国人とインド人が経営する企業が占める割合は、80年代初頭から90年代にかけて、13%から30%近くにまで増加した。

・アメリカでは、企業のR&D投資額は、2002年に約80億ドル減少、政府は防衛技術分野でのR&D費削減に取り組んでいる。州政府の多くは、高等教育における文化・芸術のプログラムを削減する一方、スタジアムやコンベンションセンターなどの建築プロジェクトに巨額投資を続けている。

自由や安全と同じように、創造性は公共財である。すべての人に帰属する本質的なものであり、これを失いたくなければ、たえず育成し、改善し、維持していかなければならない。

「創造性というものは、天然資源のように備蓄できるものでもなければ、それを巡って争いが起こるといった有形の資産ではないし、まして売買可能なものではない。」

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フロリダは、創造性を発揮する時代には、3つのTが大切で、それが技術(テクノロジー)、才能(タレント)、寛容性(トレランス)であるとしており、何故、ある地域に集中するかというと、寛容性がある地域とそうでない地域があるからで、クリエーティビティを発揮させるには、寛容性が重要であると言っている。

これは確かにそうで、彼は、そのためにブッシュが取っている政策は、アメリカの良いところであった寛容性を失わせており、よくないとしている。

彼のアメリカへの警告は、まさにその通りと思われ、今後の経済社会の発展にとって何が重要かを良く理解して政策を打つべきであるというのは大賛成。

そのために、彼は、アメリカが寛容性を取り戻すとともに、創造性を高める方向でお金を投資すべきであるといっていることは賛成だが、上記「 」は、どうだろうか。

創造性は、人や場に蓄積するので、それがなくなってしまえば確かに備蓄できないが、ある意味冷蔵庫と同じように、そうした環境さえ維持すれば備蓄可能であり、今後は、創造性ある人々を獲得しようと争いが起こるかもしれない。売買もありうる。

その場合、創造性ある人々は必ずしも金では動かないかもしれないが、金も重要であり、まして勉強できるチャンス、刺激を得られるチャンス、研究開発費が豊富などと合わされば人は動く。売買といっても単なる金ではなく、「環境」の提示で獲得競争が起こる可能性はある。彼らは、意義(人類を救うなど)で動かされることもあるが、知的好奇心でもっとも良く動くので、アメリカが第二次世界大戦で原爆を開発したようなことやクローンなど神を冒涜することも十分やる可能性がある(オウムだってそうだ)。

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