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January 07, 2008

イメージダイナミクス

情報が地域を創ることを再勉強しようと思ったのは、「原宿」の原稿を書くにあたって、これを応用してみようかと思ったからであった。

鈴木さんは、田中美子さんの「地域のイメージ・ダイナミクス」(技報堂出版)を取り上げている。田中さんは、人々が地域を評価するにあたって、実態ではなく、地域に対する先入観などのイメージを媒介するという点に着目する。そして、システムとしての地域が有する特徴に自己組織性があるとする。自己組織性とは、システムが環境との相互作用を通じて、自らの構成を作り変えていくプロセスである。

たとえば、子供は叱られながら、自らが属する社会の規範を学習していく。他者の反応を通して、子供自身が社会の規範を理解し、内面化する。

これと同じように、地域の内部イメージと外部イメージがあり、それぞれ実態とは少しずれがある。このずれが刺激となって、地域のイメージを自己組織化し、結果として地域のアイデンティティが確立していくためのポジティブなフィードバックの源泉となる。

長野県飯田市は、昔から浄瑠璃などの人形劇が盛んで、そのなかで子供達のための人形劇イベントが開催される。このイベントは回を重ねるごとに国際的な評価を獲得し、住民の間に「人形劇のまち」としてのイメージが確立され、敷いては、人形劇場の建築が行われた(実態に反映された)。地域内部のイメージ、地域外からのイメージ、地域の実態がそれぞれポジティブなループを描きながら、豊かな地域アイデンティティを情勢するというダイナミックな動きである。

言い換えると、「地域内部における反省的な把握」と「外部からの評価」の2つのフィードバックによって地域アイデンティティへと昇華し、結果として地域の実態へと反映されていく。

鈴木さんは、これをさらに進めて、情報化により、地域が自らの情報を発信することができるようになったため、地域が情報を発信することで、自身の価値を高めていく可能性を述べている。昔からCI(コミュニティ・アイデンティティ)戦略の話は、由布院の成功例などがあるが、地域を商品として全国に発信するのとは異なり、自ら価値を高めていくのに地域情報化が機能するという。

地域のイメージとは、地域の実態が照射されて生じるものではなく、むしろ「地域」に対するコミュニケーションこそが逆に何を地域の実態として捉えるかという意味を構成するといっている。

たとえば、「この町は、○○の町」というのは、田中さんによれば、地域の実態を反映しているのだが、鈴木さんは、特別な要素が町のなかにあるのではなく、人々がコミュニケーションによって、その町に特別な要素を見つけ出していく。コミュニケーションそのものが、地域のアイデンティティと呼びうるポテンシャルを持つ。したがって、アイデンティティは、確固としたものではなく、不断のコミュニケーションのなかで創成するダイナミックなプロセスとして捉えるべきであるという。

人々が「かけがえのないもの」として地域を認識することが必要。伝統的な共同体は、そのイメージを安定的に維持することが難しくなかった(空間的に他と区別されており、長い時間を通じて次世代にイメージを受け渡すことができた)。しかし、今日では、空間的な限定性も時間的な継続性も多くが失われている。物理的な位相においては、人は容易に地域から流出し、入れ替わる。地域情報化は、人々の流動性にも関わらず、空間を越えて地域をイメージを共有することを可能にする。

鈴木さんの付け加えた部分を置いておいて、田中さんの考え方は、面白い。

原宿では、イメージとして、ワシントンハイツというアメリカの比較的豊かな生活のにおいがする町であり(物語の位相)、そうした匂いが好きなカタカナ職業の人々が集まるようになり、そのなかからマンションメーカーが生まれ(実体の位相)、それが雑誌で取り上げられて、ファッションの町というイメージが強くなり(物語の位相)、ラフォーレ原宿の仕掛けもあり、相乗効果が起こる(実体の位相:イメージを求めて附属屋、大手も原宿に拠点を持つ)。原宿ドリームという生産側の実態とイメージ、及び先端ファッションを消費したり、たむろするという消費側の実態とイメージが重なり合う町となる。これがピークを迎えるのがDCファッションで、それがバブルの頃のインポートブームとバブル崩壊で衰退する(これは実体も物語も)。この間に竹の子族、ホコ天、竹下通り修学旅行生で溢れる、呼び込みが増える、それへの対応などあり。イルミネーションとその廃止などもあり。実体の仕掛けと物語に集まる消費者あり、それへの反発としての住民の動きなどあり。

その頃に藤原ヒロシらの仲間の新しい若者の作り手が店を出し、裏原ブームとなる。これも実体とそれがマスメディアなどと連携してイメージとの相乗効果。セレクトショップなども生まれ、原宿ドリーム(好きなことをやって仕事にもなる)が再来する。しかし、こういうブーム的なものになると、飽きられる、街の匂いが変わったとして出て行くクリエーターもいる。

これがさらに、バブル崩壊の頃に外資が表参道を買い、高級ブランド店が並ぶようになる。これは実体ではあるのだが、売れるとは限らない、アンテナ、ショールームという話もあり、そうなると物語でもある。高級ブランド店が並ぶとイメージが変わり、原宿ドリームの物語に悪影響という懸念もある。地価が上がって(実体)、原宿ドリームが難しくなる面も(物語の崩壊)。

内部の反省、外部の評価、及び実体の位相が互いにフィードバックするのだが、誰の内部かということがあり、これがクリエーター、小売、商店会、地主など、それぞれの内部の反省的な把握が異なるので、複雑性を増す。コミュニケーションを通して、原宿はどんな町かを認識し合うのだけれど担い手ごとにこれが異なりすり合わせする。

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Comments

地域のイメージダイナミクスモデルを提唱している、田中美子です。こんな風に取り上げて下さって、有難うございます。皆さんの議論をもっと聴きたいです。ところで、このイメージの自己組織化という視点から、来月、『いじめ発生・深刻化のメカニズム―地域のイメージ・ダイナミクスモデルの適用―』という本を出す予定です。人々が心の中に想起するイメージが、集団の力学となり、イメージダイナミクスモデルが開いた系では(地域の情報の受発信)イメージが地域活性化に資するのに対し、系が閉鎖的(例えば教室のような空間)だと系の「外」から見えないうちに『いじめ』許容空間になってしまう・・・というものです。まちづくりのために作ったモデルが、「いじめ」という社会病理を説明できたら興味深いと思いませんか?是非、手にとって読んでみて下さい。そしてお考えを聞かせてください。田中美子著
『いじめ発生・深刻化のメカニズム―地域のイメージ・ダイナミクスモデルの適用―』世界思想社、2010.9発売予定です。

Posted by: 田中美子 | August 09, 2010 01:21 AM

取り上げて戴いた、『地域のイメージ・ダイナミクス』(技報堂出版)の著者、田中美子です。私の議論を扱って戴き、大変光栄です。

Posted by: 田中 美子 | May 14, 2014 12:55 PM

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