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January 07, 2008

シリコンバレー(梅田さんの本から)

梅田望夫さんの『シリコンバレーは私をどう変えたか』を読む。以前購入しておいたのだが、読んでいなかった。

私は、98年末に受託調査でアメリカに行き、インターネットを使うことで世の中が変わりつつあることを肌で感じ、早速レポート「シリコンアレー」や「日本のシリコンアレーはどこだ」、『マルチメディア都市の戦略』をまとめ、この流れに後発ながら乗っかったのであった。

梅田さんは、94年4月にシリコンバレーに来て、インターネット革命を目の当たりにしながら自らもその当事者となっていった。彼がシリコンバレーに行った頃には、シリコンバレー自体は、半導体などのベンチャーの生まれる土地であったが、まだインターネットの利用は始まったばかりだったはずで(ネットスケープやアマゾンが94年に会社設立)、著しい変化の最初の頃(96年くらい)からの手紙にスケッチされた内容からこの本は始まっている。

急激な変化を最初は観察者として見つめながら、もともとコンサルの能力がある人であったのだろうが、次第に当事者になり、そのなかで彼が成長していった様子がよく分かる。世代も違うし、彼はコンピュータソフトなどの素養があるし、現場に居たということも違うが、同じ頃に同じ変化を見つめながら、彼が大きく成長し、専門家になっているのに、私はついに観察者で終わってしまったという格差を感じて忸怩たるところがある。

それはさておき、観察者から当事者になっていく間のことを彼の目線でまとめられているので、シリコンバレーの仕組みのようなものが臨場感を持って理解しやすい。

シリコンバレーでは、過去に幾度もベンチャーブームの波があり、それを契機にさまざまなベンチャーズインフラが整っており、人々のものの考え方やスピード感がおそらく日本とだけでなく、アメリカの東部などとも異なっており、世界に一つだけの花ではないが世界に一つだけの場所なのだろうと思う。いろいろなきっかけを通して、シリコンバレーには、シリコンバレーらしい仕組みが軌道修正されながら出来てきたのだろう。

これでは、シリコンバレーにある機能をいくら日本に移植しても、機能しないに違いない。

だから、シリコンバレーを日本に作るとか、シリコンバレーをお手本にするのはおそらくおかしいこと(間違った手法)に違いない(参考にするとしても)。日本にベンチャーの風土・環境を作るのならば、別のソフト・仕組みを考えるべきなのだろう。日本の風土で機能しやすいベンチャー環境はどのようなものかを研究し、それを補強する、あるいは、以前あったなら、それを取り戻すことが必要なのではないかと思えた。

A制度      B制度      B’制度
A風土      B風土      B’風土   

本は、バーッと読んでしまったので(線など引かずに)、忘れているところもあると思うが、気になったところをメモっておくことにする。

1.ある種インサイダーのようなクラブ世界があるということ。

梅田さんは、シリコンバレーはプロスポーツと同じで、メジャーリーグをトップとしたピラミッド型になっていて、玉石混合のなかからメジャー入りする選手がいるといっており、しかし、プロスポーツほど、目に見える形で人物を評価する仕組みがないので、夢を追って玉石混合の人々が集まってくると書いている。評価する仕組みはないが、ビジネスアイデアを発表する場所があるとしている。(また、学生時代に勉強は苦手でやりませんでしたという人はいなくて、皆優秀であり、努力を惜しまない。)

しかし、P196では、こうも書いている「シリコンバレーは自由でオープンの世界に見えるが、内実は、能力・見識・実績に応じた目に見えない秩序が存在し、厳然とした階級社会が形作られている。その階級の頂点に、IT産業の歴史に燦然と輝く功績を残した重鎮たちのネットワークがある。彼らはエンジェルとして起業家を支援する場合も多く、本筋の投資案件群が常にそこを巡回している。」・・そして、梅田さんが最初に立ち上げたファンドは、「ゴードンがエンジェルとして育ててきたソフトウェアベンチャーに50万ドルの投資を決定。ついに正真正銘のベンチャーキャピタルとして荒海に船出することになった。」とある。

ゴードンさんは、一世を風靡したPDP/VAXシリーズ(DEC社)の基本設計者としてコンピュータ産業・育ての親と称される天才である。梅田さんは、ある時接点ができ、以来、彼を師と仰いでいろいろと相談している。梅田さんが日本のクライアントから依頼された新製品や技術戦略についての彼の考えを聞くなど。梅田さんがゴードンさんにまともな相手として見られるようになったのは、梅田さんが会社をやめ、一人でビジネスをやることになってからである。それまでは、仕事の関係であったが、それ以降、個人と個人の関係に変わったという。

つまり、観察者ではなく、リスクを張ってシリコンバレーでビジネスをすると覚悟をした梅田さんを話の出来る一人前の男と認めたというわけである。ゴードンさんのようなかつて成功した天才のネットワークがあり、彼らが次の種の目利きをし、種を育てており、彼らの周りにそうした本物の成長しそうな種情報が渦を巻いている。このネットワークに一人前として認められ、その情報を得られることは、ベンチャーキャピタリストにとってリスクを減らし、本物へ投資することが出来るということになる。

2.シリコンバレーには、ベンチャーだけでなく、多様な人がいるということ。

企業価値を創造し、その功績によってストックオプションを得られ、大金持ちになる人。一方、そういう機会には関わらず、大企業でサラリーマンとしてソフト開発などをする人。リナックスのリーナス・トーバルに代表される「ナード」と呼ばれる好きな(意味がある)ソフトウェア開発をしていれば幸せ、金儲けは考えない、OSは必需品なので無料で提供するといったような社会主義的な考え方をする。ちなみに、リーナスは、ある会社で給料を貰ってソフトウェア開発をし、夜に好きなリナックスを開発している。これに、レストランなどで働く低賃金労働者。さらに、専門能力を活かして、時間いくらで働く専門家。

シリコンバレーには、こうした専門家の層が厚いらしい。梅田さんがあるベンチャーを評価するにあたって(投資の品定め:投資の見返りにどれだけの株式を得るかは、投資時点での企業価値によって決まる)、法律家、ドットコム事業のコンサルタント、デユーデリジェンス(適正価値評価手続き)の3人の専門家チームを構成した。

オールドエコノミーの世界に何年も縛られるのはいやであるが、ベンチャーのみにのめりこむのも危険ということで、2日間は企業の仕事をコンサル(日当2000ドル)で行い、残りの2日をベンチャーの副社長で働くという働き方も多い。(40歳を過ぎたらポートフォリオ:働き方)

3.投資にあたっての企業価値の算定

ビジネスプランを作った創業者に対し、投資を受けたと仮定した時に資金の使い道の詳細、週単位での進捗予測を微に入り細にわたり聞いていく。これから数ヶ月の間に創業者たちが直面するであろう困難や潜在的問題点を一つ一つ具体的に上げその対応方法を尋ねる。時にはわざと頭に血が上るような悪意に満ちた質問をあびせかけて、その反応を見ることで現実対応能力を判断しようとする。

創業者は、こうしたやりとりから学んだことを徹夜でスプレッドシートに反映させ、翌朝までに新しいビジネスプランを用意する。その新しいビジネスプランい対して、また違う角度から同じことが繰り返される。

これによって、創業者たちも自らの考えを整理することができるし、投資側との間に信頼関係が生まれる。・・・→その結果は「企業価値の評価を下方に修正し、なおかつビジネスプランに含まれる不確実性を数値目標の形で表現し、その達成度合いを企業価値に反映させるという思想での契約を目指すべし」となった。

こうした企業価値評価の専門家が居て、また創業者の方も不確実性をできるだけ明確にすることに賛同するというのは、なかなか日本では難しい。

4.元勤務先からの意地悪への対応

会社をやめて独立するあるいは転職するにあたっては、元の勤務先から意地悪をされないよう、弁護士と相談しておく・・と忠告されている。梅田さんの場合には、ライバル会社に移るわけではないので、問題はないとされたが、できるだけ今後とも良好な関係を築くことを前提に、建設的な話あいをすると良いとアドバイスを受ける。退社後の提携関係を提案するなど。

5.アーリーリタイヤメントのゴール

ある年齢(X歳)までに作り上げた資産の運用だけで、X歳から死ぬまで全く働かなくても十分な収入が得られる状態のこと。当時37歳のジーンさんは、X歳を51歳として、戦略を立てているという。

30代半ばから50歳までの約15年間で、3億から8億円の資産を作ること。それには、大企業に属する場合なら、コンサル会社、投資銀行、弁護士事務所、ベンチャーキャピタル、上場企業の経営者に若くして登用される。あるいは、ベンチャービジネス(キャピタルから投資を得て株式公開か売却をする)または、スモールビジネス(一人で自己資金ではじめ、経験が生かせ、収益性の高い事業をつくって売却する)。

日本だと、高級官僚になり、退職後、いくつかの企業の顧問などになって(最初から働いていたのと同じくらいの)退職金を貰う(複数回数千万円もらえる)とこれが可能になるのだろう。

6.アメリカも企業評価に冷静さを失ってバブルを起こす。

アメリカは、ベンチャーになれており、企業を評価する専門家もいるので、投資バブルは起きないのかと思ったらそうでもないみたいだ。

資金がシリコンバレーに流れすぎて、本来ならばアーリーに費やすべき金と時間がレイターに集中してしまい、優れたベンチャーが資金手当てしにくい(アーリーで)。これをゴードンさんは、シリコンバレーの生態系が崩れてしまったと嘆いている。

つまり、世界的にみて別の投資先が見つからなければ、シリコンバレーに金が流れてきて、それらはアーリーに投資するための情報(ネットワーク)を持たないので、リスクの少ないレイターに行ったからと考えられる。アーリーに投資するには、リスクを削減できるだけの情報が不可欠なのにそれを持たないお金が入ってきているということなのだろう。

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