インダストリアル・ディストリクト
2月の国際シンポジウムでは、イタリアからインダストリアル・ディストリクト(ID)の専門家であるオッタッティ先生が発表された。
IDは、直訳すると産業地区となる。
日本では、繊維などの産地という言い方を長い間してきた。ところが、シリコンバレーなどの話のなかから産業集積という言い方がされるようになったり、アメリカのポーター教授などがクラスターと言い出し、これらがごっちゃに使われている。
日本で産地という場合には、生産に関連している企業が分業しながら一定の範囲内の地域に集まっていることを指すが、改めて産業集積とか、クラスターと言う言い方が来て、①企画機能があるかどうかとか、②ぶどう(農業)→ワイン(食品工業)→ワインを飲めるレストラン(三次産業)などの関連のクラスターも含めて考えるとか、③産業だけでなく、大学や研究機関、地方政府なども連携するといった要素を気にするようになった(広く考える)と思う。
それでも、私は、似たような考え方だと思っていたのだが(日本の産地は、確かに明治以降、下請け加工業の集積となったものの、群馬大学と桐生の織物産地の関係もあれば、もともとは地域内に企画機能があったことや、そこから派生して精密機械なども生まれるなど、時代や環境に対応して、いろいろな機能が加わったり、失われたりしているにすぎない)、オッタッティ先生は、IDとクラスターとを明確に区別しているようであった。
オッタッティ先生の資料によると;
IDは、社会経済的な存在であり、コミュニティの人々の相互作用と主にその地域の産業に属する大部分の企業によって性格づけられる。(ID is a socio-economic entity characterised by the interaction of a community of people and a population of firms mainly bilonging to a localised industry(economic nation)
IDの主要な構成要素は、
・インフォーマル(態度、暗黙の行動基準・・)な人々のコミュニティとフォーマルな組織(商工会議所、地域政府、技術学校や職業学校・・)
・企業によるクラスター(これは、しばしば、地域の産業とは異なった行動に特化している)、中規模な個人企業群、しかし、同じ地域性を持っていて、仲介機能を持っており(主に、地域のインプット市場)、だからこそ、地域生産システムが大きくなれる。
翻訳だとちょっと良く分からないのだけれど、ここで注目したいのは、インフォーマルな人々のコミュニティ(暗黙の行動基準など)を挙げている点である。つまり、クラスターは、企業によるビジネスの世界なのだけれど、それだけではなく、インフォーマルな付き合いがあってはじめてビジネスのメリットが機能するということである。
シリコンバレーの話でも、インフォーマルな仲間内(同じ価値を共有する個人)があってこそ、情報の質が高まるのであって、オッタッティ先生は、ここを重視しているようなのだ。おそらくは、シリコンバレーのインフォーマルなコミュニティとイタリアの地域に根ざしているコミュニティとは、意味合いが違うのだろう。
その後のディスカッションでも、「IDとクラスターは、半分同じ。IDは、クラスターのほかに、社会のルールなどが含まれる」と言っていた。つまり、IDは、クラスターより上位(広い)概念ということのようだ。
社会のルールが異なれば、同じように産業が集積していても、全く異なる成果になるということだ。集積によって外部経済メリットが生まれるが、それだけでなく、意図して外部経済メリットが生まれるようにするという。たとえば、皆で浄化装置を設置したり、輸出のための仕組みをつくるなど。
また愚痴になるが、サッポロバレーでは、意図して、外部経済メリットが生まれるような活動が生まれなかったのだ。
The comments to this entry are closed.
Comments