« ロンドンの復権 | Main | まちは自分たちがつくるもの »

May 26, 2008

アメリカ中小都市のまちづくり

服部圭郎『アメリカ中小都市のまちづくり』については、公明新聞に書評を作成し、その紹介をしているブログにすでに書いた

それにしても、ここに書かれている都市では、「まちは自分たちがつくりあげていくものなのだ」ということが徹底されており、本当に羨ましい。これこそが自治だと思うのだが、これをもう少し考えてみたい。

この本の最初の事例は、カリフォルニア州デービス市。人口6.4万人(合併前の田無市が7.8万人)で、ゆっくりと成長するというポリシーを掲げ、経済的な成長より市民の豊かさを実現する生活環境の確保を優先した。そして、オープンスペースに溢れ、自転車専用道路が縦横に広がり、さらに周辺の農産物を消費することを通して、都市と農地を共生させることに成功した。

このまちがこのようなことをすることができた背景の一つは、人口のうち約半分が学生であり、成人人口の8割が大学入学者である(卒業が6割)というところにあるのかもしれない。要は、大学町であり、比較的インテリが多いということだ。だから、あるべき姿について同じようなビジョンを共有できたのかもしれないし、違ったとしても、議論を通して、合意形成することが可能であったのだろう。

もう一つは、今日の姿が出来上がるまでには、相当の年月が経っていることだ。

公園の目玉になっているファーマーズ・マーケットを二人の元学生が始めたのが1974年であり、カリフォルニア州の食糧・農業局がこうした仕組みを全州に取り入れ認定制度を設けたのが77年(デービスは一号として認められる)であった。

85年にセントラルパークに隣接した駐車場を市長と市議会がデベロッパーに売却しようとしたときに、反対運動が起きて、駐車場までを公園にすることや、ファーマーズ・マーケットを園内で開催するようなマスタープランが作られたのが88年であった。

市の外延にあるオープンスペース(農地)を確保するために(開発しない)、市が郡に毎年200万ドル(2億円強)を補償することを決めたのも88年であった。2000年には、予算が無くなり、住民投票をして7割の賛成を得て、オープンスペースを守るための税金徴収をすることになった(30年間で約20億円)。

市内については、グリーンベルト(各住区は、公園と散歩道など緑のネットワークを構築する)を整備することとした(87年)。

また、93年には、自転車道路整備計画を策定し、市の面積26キロ平方メートル(西東京市の面積は16平方キロメートル)のうち、80キロメートルの自転車レーンが設けられている。83キロの専用道路、市内の幹線道路の9割以上には、自転車レーンが設けられている。市の人口が6.4万人のところ、自転車台数が6万台とのこと。

こうしたことを実現するために、市長や市議にも、こうした考え方の人たちを送り出している。

著者は、70年代の学生運動を経験し、もう一つの暮らしを求めた人たちが多く住んでおり、その文化的な遺伝子が大きく影響していると述べている。

私が住んでいる田無には、都のグリーンロード(サイクリング道路兼散歩道:全長22キロ、うち西東京市が10キロ程度らしい)が横切っているし、ところどころにかつての武蔵野の風景を残して公園が出来ているけれども、どこのまちもそうであろうが、昔の馬車道が舗装されて自動車道路になったので、歩道も不十分(途切れ途切れ)であるし、まして自転車はどちらからも邪魔者扱いになっている。

おまけに歩道には、目の不自由な人用のでこぼこしたブロックも置かれている。このため、車椅子で散歩しようとすると、とても怖い。

もし、私が市長になって、今後の高齢化社会を考え、環境問題を考え、自転車道路のネットワーク化、歩道の完備などを実現しようとしたら、できるものだろうか。地元の農地を守り維持するために、農家が相続税対策で、土地を切り売りし、住宅と農地が混在するのを整理したら、それは受け入れられるだろうか。

今すでにあるものをつぎはぎしながらお茶を濁すのではなく、本当にそこに公園が必要か、本当にそこに商店街が必要かなどを議論して住民がまちづくりをしていくことは可能だろうか。

今でも、三共跡地にショッピングセンターとマンションが出来、もうすぐ、石川島播磨の跡地に住宅と病院とショッピングセンターが出来る。駅前の集積地のほかに、飛び地でショッピングセンターが出来ても、競争がないことや、来客数が少ないために、生鮮野菜などが売れなくて、ひどい品質であったりする。

その場しのぎでしかない。

ビジョンを持って30年の姿をえがいた施策が出来るものだろうか。

|

« ロンドンの復権 | Main | まちは自分たちがつくるもの »

Comments

The comments to this entry are closed.