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June 14, 2009

ユヌスの手法を日本に適用してみる

ユヌスのソーシャルビジネスの考え方(利潤極大化ではなく社会問題を解決するのを目的とするが、ビジネスとしては黒字にし、更なる社会問題解決に投資する)は良いと思うので、この手法で日本が抱える課題を解決することを考えてみよう。

ソーシャル分野に適しているのは、医療・福祉・教育などの社会分野で、これまでは政府がやってきた分野だが、ユヌスは、政府と競争することを厭わないという。その例として、必要な橋をユヌスの会社が作り、金持ちからは通行税を取り、貧乏人は只というやり方で投資資金は回収できると言っていた。

政府と競争することを厭わないというのは賛成だ。民間が新しいビジネスモデルを打ち出し、そちらの方が国民に喜ばれるなら面白い。

ところで、ユヌスのソーシャルビジネスは、いろいろ新しいソフトを開発している。

たとえば、マイクロクレジットは、無担保・低利で貧乏な人に貸し出すのだが、5人の連帯保証人が必要。5人も名前を連ねてくれる人がいるということは、その借り手は、逃げ得をする人ではないということ。また、どのようなビジネスをするのかを聞き、アドバイスをしたりもするようだ。

日本の消費者金融も、強いニーズがある市場を開拓した。たぶん、個人はそう踏み倒さないとか、貸し出しノウハウがあるはずだ。もっとも、一時期は、怖いお兄さんが目玉売れとか、保険金をかけて殺すなどもあったけれど。

強いニーズがあるのに、ソフトがないと提供できないサービスを、ソフトを開発することによって可能にするのは、ソーシャルビジネスという前に、ニュービジネスである。

また、白内障を手術する病院チェーンも展開し、金持ちからは代金を得るが、貧乏人は只であるという(前述の橋もそう)。この線引きは、どのようにしているのだろうか。結果として金持ちは、倍?の料金を支払っているのだが、「人を助ける喜び」で怒らないのだろうか。

日本では、医療の支払いで、高齢者は1割負担、働く年代は3割負担である。高齢者は、年金暮らしで貧乏、働く年代は給料を得ているので金持ちという区分けは、余りにも大雑把だ。高齢者にも、金持ちもいれば、貧乏人もいるし、働く年代は子育てや家のローンなどで苦しいし、働く年代であっても派遣等で貧乏な人もいる。

医療保険や介護保険などの制度は、基本的に元気で所得のある人が弱った人を支援する(同じ人が元気人と病人とになることもある)仕組みで、ユヌスのは、それを制度ではなく直接の支払いで行う。

おそらく、バングラディッシュならではの、区分けのソフトがあるのだろう。

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では、日本でユヌス方式で課題を解決するとしたら、どんなことが考えられるのだろうか。

ユヌスがやっているソーシャルビジネスは、すごいなぁと思うのだが、日本には、そのままでは当てはまらない。

1.マイクロクレジット→生活基盤を作りたいのにお金が借りられない人に小額を貸し出す

日本では、NPOバンクもあるし、杉並区のように市民の寄付によるNPO基金などもある。帯広信用金庫のように創業支援に積極的な金融機関もある。また、日本政策金融公庫による女性・高齢者の創業支援などもある。

問題は創業しようと思う人や創業のアイデアがないことかもしれない。

2.ヨーグルト事業→子供の栄養失調を無くすため栄養価を考えたヨーグルトを生産、工場での雇用・販売員の仕事も創出

日本には栄養失調問題は基本的にない。しかし、貧困問題はある。身寄りのない高齢者、派遣切り、正社員になれないなど。グローバル資本主義下で、地域の地場産業は崩壊し、誘致した工場は移転し、中小小売店は衰退し、地域には雇用機会が減少している。

(1)姥捨て山

群馬県の無届老人ホームは、現代版姥捨て山で、強いニーズはあるのだが、ビジネスモデルが難しい。ニーズはあるが、望ましいサービスに見合う支払い能力がない。このケースの場合、生活保護費をホーム側が受け取ることでサービス提供がなされてきたが、サービスの質は低い。

日本では、介護保険制度はあるが、基本は、家族が担っている。しかし、家族が担いきれない(介護費用が出せない、サービスを受ける以外の時間負担がムリ(職を失うことも)、特養はすぐに入れない、家族がいない)ケースをどうするかは考えられていない。

無認可老人ホームの経営者は、ある意味、行政がやれない部分を担うソーシャルビジネスの担い手ともいえる。群馬県の田舎に雇用も生み出していたはずだ。これを姥捨て山ではなく、素晴らしいビジネスにするには、どんなソフトが必要なのだろう。

介護や福祉は、制度に加え、人の善意で補うしかないのだろうか。宅老所のそもそもは、地域の「おせっかいさん」による善意で始まっている。介護保険制度に組み込まれ、デイサービス部分の介護保険制度から助成を得られるようになり、経営的に少し息がつけたという。

この分野で新しいビジネスモデルを開発すれば、ソーシャルビジネスになるかもしれない。

(2)地域経済活性化

地域経済を活性化させるにあたって、これまでは、道路工事などの公共投資が中心であったが、これも縮小方向にある。これに代わる地域経済を活性化させるビジョンがない。

中心市街地活性化、観光、農業、環境、グリーンツーリズム、産学連携などなど、政府からいろいろ打ち出されているが、いずれもパッとしない。田舎は、猫も杓子もグリーンツーリズムをやったり、地域ブランドをつくったりしている。

これらも、行政が音頭を取り事業を作り出し、地域が申請して補助金が出る仕組みになっている。相変わらず、国がお金を配分している。だから、同じような事業になる。

そういう目でみると、北海道で、風力発電を一般の人たちから資金を集めて発電機を設置した動きは、先進的と言える。

「外貨」を獲得することを考えるなら、国内市場だけでなく、海外市場を念頭に置けば、国内では飽和状態の商品やサービスを海外で展開することは可能かもしれない。もちろん、海外できちんと対価が取れる必要があり、そこには知恵が求められる。

あるいは、観光も、海外からの観光客を継続的に呼び込める仕掛けをつくる必要がある。

地域は、経済を活性化したいと言いながら、海外市場への展開や海外からの観光客誘致におそらく知恵も絞っていないし、汗もかいていないだろう。

(3)道路建設

大阪の橋下知事が道路建設など国の直轄事業に地方公共団体が一定割合を負担する「国直轄事業負担金」に反対を表明する一方で、凍結されている新名神高速道路の見直しを求めている。要らないものは要らないが、必要なものは必要といっている。

これを国に申請するのではなく、ユヌスのように、建設したい京都府や滋賀県と協力して地方公共団体と民間で建設するビジネスモデルは可能だろうか。逆に、国に対して一定割合を負担させる。こちらのパーキングエリアは、とても魅力的で皆がこちらを利用するとか、温泉を設けて、そちらからの収入も得るとか、周辺に工場を誘致して、そちらの地価上昇分で賄うとか?

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