地域コミュニティが注目される背景:名和田先生
法政大学法学部教授の名和田先生は、地域コミュニティに詳しい。『コミュニティの自治-自治体内分権と協働の国際比較』日本評論社も読んだが、静岡総研の雑誌『SRI』2009年10月号に書かれている記事が短いので分かりやすい。紹介を兼ねて整理しておく。
まず、近年地域コミュニティが注目される背景として3点挙げている。
1.1990年代移行のバブル経済崩壊後の不況と財政危機という事情から、行政サービスの縮小を補う形で「共助」の重要性が再認識された。
・70年代から80年代にかけて、各自治体でコミュニティ政策がとられた。小学校区程度のエリアに、コミュニティ・センター(コミセン)を整備し、地元の住民組織に管理運営を委託するなどが行われた。しかし、この頃には、まだ日本経済が比較的良好なパフォーマンスだったので、コミュニティ形成をテーマとしながらも、生涯学習活動の拠点として意識されていた。
・しかし、昨今では、上記と似ているが、住民組織に、地域内の切実な生活課題に取り組むという地域福祉的な活動が求められている。
2.平成の大合併により、自治体内分権制度ができた。
この制度は、合併して消滅するもとの行政区域の不満や不安を解消して合併を進めるために作られたという側面もある。しかし、制度設計のなかには(第27次地方制度調査会答申)、自治体の規模が大きくなることによって住民自治が薄くなることを懸念している考え方が含まれている。また、答申では、「協働」という政治理念、すなわち、住民サービスを担うのは行政のみでなく、住民やコミュニティ組織、NPO等も担い手であり、これらと連携していくという考え方を提起している。
・ヨーロッパでは、合併によって制度上消滅するコミュニティを自治体以内分権制度によって制度のなかに残す措置がとられた。
・特にドイツでは、州によって制度は異なるものの、自治体内分権の仕組みが法律によって精緻に制度化されている。
・日本は、開発主義的な国づくりのなかで、明治の大合併、昭和の大合併と、全国的な合併が二度も行われたにも係わらず、それによって消滅する地域的まとまりが法律や条例によって制度的に残されるという対応は行われなかった(平成の大合併の折の地方自治法改正まで)。
3.自治会・町内会の衰退がみられ、コミュニティの再生が政策目標として自覚的に取り上げられるようになった。
・自治会・町内会は、民間組織でありながら、一定地域を取り仕切るという、通常ならば国家権力や制度の背景抜きにはできそうもないことをやりとげてきた特有な地域組織である。自然集落的なレベルを組織する単位自治会と昭和の大合併で消滅した小学校区程度のエリアである連合自治会とが民間地域組織として機能してきた。
・国家権力や制度の力を使わず、その基本は合意原則である。民間的原理だけで地域を組織する、そこに住む人全員が会員になってもらうという偉業がなしとげられてきた。しかし、昨今加入率が低下してきている。
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自治会の多くは、戦時中の隣組組織に端を発しているのではないか。
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