寄付から投資へ-社会イノベーション分野の金融
社会イノベーション分野の事例で地域イノベーション分野に活用できるものはないかと、FAST COMPANYの賞を受けた事例を整理したのだが、高い評価を得ているのが、実際に現場で汗をかいているものではなく、「金融」や「コンサル」なのにちょっと驚き、違和感があった。
私のように足し算的な「可愛らしい」頭では、やはり大きな社会変革のうねりは捉えられそうにない。微分積分的な頭の良い人たちは、やっぱ、こうなんだ。
『チェンジメーカーⅡ」のなかに、表題の内容について、要領よくまとめられていたので、紹介しておく。
1.貧しい人たちへの寄付、助成金
2.マイクロファイナンス(零細事業の立ち上げに対する小額無担保融資)→極めて高い返済率が実証される
・NGOアクシオン・インターナショナル(創設者:ジョセフ・ブラッチフォード)1973年:マイクロローン(5人組になって互いの返済に連帯責任を持つ仕組み)
・グラミン銀行(バングラディッシュ)、フィンカ・インターナショナル(中南米)
3.マイクロファイナンス機関(貸し出しはできる)の銀行化
・ビジネスが順調に成功したメンバーは、連帯で金を借りる必要がなくなる。成功組は、稼いだ利益を貯蓄するための預金口座が必要。
・マイクロファイナンス機関は、銀行ライセンスがないので、預金口座を提供できなかった。そこで、銀行と提携する動きが始まった。
・1992年ボリビアのNGOバンコソルが銀行ライセンスを取得して銀行に転じた。
・2003年までに少なくとも重要なNGO39団体が銀行に転じた。
・プロクレジットバンク(創立者はドイツ人のC.P.ツァイティンガー)は1996年に第一号店をボスニア・ヘルツェゴビナで開設、その後、東欧、アフリカ、中南米などに19の銀行子会社を設ける。「連帯責任ローンは、人間関係が濃密な田舎社会だけで通用する。そのひと個人の価値で査定する。提示された起業のキャッシュフローとビジネスの具体的見通しを重視する。」個人の返済能力を見極めるため銀行スタッフの人材育成に力を入れる。返済率が非常に高い。2005年には大手格付け会社フィッチレーティングスから格付けを与えられる。常勤スタッフ2007年夏に1万7000人、貸付額45億ユーロ(5200億円)。銀行立ち上げ当初の2,3年間にかかるコストは世界銀行、国際金融公社などからの助成金に頼り、その後、自立運営に切り替わる。数年後には、立ち上げ段階から援助に頼らない経営が可能とのこと。
4.マイクロファイナンスの投資ファンド展開:投資金と運営アドバイスによる援助
マイクロファイナンスが確実な投資であるという評価が定着し、これを一般投資家と結びつけた営利の投資事業とする動きが出てきた。
・「プロファンド・インターナショナル」:アクシオンを中心とするNGO4組織が2300万ドルを集め、1995年にパナマで営利の投資会社を設立した。
中南米のNGO運営によるマイクロファイナンス機関への投資で株主にできる限り高い投資リターンを生み出せることを立証する実験。1995年から10年間で解散するファンド。
運営責任者アレックス・シルバ。当初は、12のマイクロファイナンス機関や零細企業化への資金援助を主業とする新しい銀行への投資を計画。しかし、投資先であるNGOの会合に出席したところ、投資ファンドの成否は、マイクロファイナンス機関の運営改善に掛かっていると判断。投資金とは別に、各機関の運営に深く関わって経営指導を始めた。その結果、12の機関がすべて目覚しい成長をとげ、銀行機能を持つ組織にまで成長。
10年間にプロファンドが投資した国のうち、パラグアイとエクアドルが経済破綻し、ハイチ、ベネズエラ、ボリビアでは暴動や革命が起きた。このような厳しい状況下で、年平均6.65%のリターンを生み出した。2005年終了時には、資産は8億ドル、10年間に支援を受けた零細起業家は90万人に達した。
5.マイクロファイナンス投資の証券化
・2001年にスイスのジャン・フィリップ・ドウ・シュレーベルがジュネーブで創立したマイクロファイナンス投資会社「ブルーオーチャード・ファイナンス」が先駆け。モルガンスタンレー等の大手投資銀行と提携し、2007年までに7つのマイクロファイナンス投資ファンドを立ち上げ、34ヶ国にある92のマイクロファイナンス機関に総額4億5000万ドルを融資。
ブ社が立ち上げた「BOLD2」は、2007年5月大手格付け会社スタンダード&プアーズからマイクロフィナンス向け投資信託ではじめて格付けを与えられた。「BOLD2」は、1億1000万ドルが集まったところで締め切り、12ヶ国にあるマイクロファイナンス機関に融資するとのこと。
6.社会変革への純然たる個人および機関投資家向け商品
・アメリカ「グッドキャピタル」が先兵、ヨーロッパでは、2007年秋以降、「オアシス」と「ソーシャル・アルファ・ファンド」が予定されている。
・「オアシス」は、ブ社を立ち上げたドウ・シュレーベルが考案したファンド。アショカ財団や世界経済フォーラムの社会起業部門がアドバイザリーに加わり、250の精鋭の社会起業を投資対象としたポートフォリオを作成。ロスチャイルド、モルガンスタンレー、シティバンク、HSBCなどの大手金融機関と提携している。最低25万ドルからの個人および機関投資家をつのる。
・「ソーシャル・アルファ・ファンド」は、スイスの銀行家テイム・ラドジー(モルガン等でフィランソロピー部門を設置した)が編み出した。財政的に安定したNGOと内容の優れた社会起業への貸付と、途上国での計測可能な開発(実際に病気の発生が激減するなど)のためのサービスや製品を提供する中小企業に投資を行う。
元金を100%保証し、米国債と同額の利息を産む最も低リスクな商品から、利息30から40%の高リスク商品まで3種類を用意する計画。最低投資額は17万ドル。
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日本では、プラネットファイナンスジャパンがマイクロファイナンス関係のビジネスをしているとのこと。新生銀行が連携しているらしい。日本発なのかと思ったら、これは、ジャック・アタリ(フランスの経済学者)が設立したものらしい。ブ社に関わるフエルダー直子氏(『マイクロファイナンス入門』の著者)も連携しているらしい。
このような仕組みを作ることで、寄付や助成金に頼らず、社会的な企業にお金が流れるようになり、社会変革が進むのは、すごいことだ。
しかし、これを日本にもある貧困や地域経済衰退などに当てはめようと思うと、なかなか難しい。
日本には、すでにさまざまな金融機関があるし、先進国と途上国のようにお金の価値が違うわけではない(1万円で何人もが暮らせるなど)。次の記事で書いたように、雇用を生み出すために、先進国にはあるが、途上国にはないビジネスやサービスをフランチャイズするのも難しい。
日本に「あったらよいな」というサービスをそれなりの利益を生み出すビジネスにどう組み立てられるかが課題だ。
たとえば、高齢者世帯が増えるので、御用聞きやなんでも屋のニーズは高い。これを不安なく、かつボランティアではなくビジネス化し、それをスケールアウトすれば良いはずだがどうした可能だろうか。先日のテレビでやっていたのは家電小売店で量販店に比べて2割高くても受け入れてもらえるというようなのが望ましい。
西友では5000円以上購入すれば配達費が無料だが、高齢者世帯で5000円は結構つらいし、インターネットに接続していなければできない。本当は、商店街で小額でもこれをやりたいのだが、ボランティアではなくどうやるかだ。もちろん、高齢者が商店街で買物をしおしゃべるするのは健康によいが、トイレットペーパーなど結構大変なはずだ。
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