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May 28, 2010

中国人企業が2割を超えるイタリア繊維産地

法政大『地域イノベーション』vol1には、松本敦則「イタリアの産地における中国系企業の台頭-プラートの繊維産地を事例として」が掲載されている。

1.中国人と中国系企業の増大

これによると、イタリアの毛織物産地として有名なプラート(県)では、イタリア人企業が減少する一方、中国人企業が増えているという。

プラートの繊維関連企業8000社のうち2000社を超える企業が中国系のものと言われている。

プラートの人口は24.5万人のうち、約10%を外国人が占め、その4割ほどが中国人とのこと。

ちなみに、私の住む西東京市の人口19万人、外国人は3300人で1.7%、毛織物産地の一宮市の人口39万人、外国人は一番多かった時が5500人で1.5%である。工場などが少ないのに、予想外に西東京市の比率が高いのに驚いた。

中国人は、戦後から60年代にかけてイタリアの流入してきた。最初はローマやミラノなどの大都市で中国料理・食材店や雑貨屋をはじめ、そこから広まっていった。プラートへは、1990年前後から少しづつ流入してきた。1990年には38人だったのだが、なかでも、2000年代に入ってから急増し、不法滞在も含めると3万人くらい居るのではないかという。

急増の要因は、2002年の中国のWTO加盟、2005年に中国がEUと結んでいた繊維協定の撤廃があげられる。その結果、これまである程度規制されていた中国からの繊維商品が大量にイタリアに流入し、また生産委託や業務提携なども始まり、それにあわせて貿易商や労働者も流入してきた。もともと、プラートには、繊維工場の安い労働力や下請けとして働く多くの中国人居住していたが、これらを契機に、商売拡大の機会を求めて流入してきた。

プラート進出は、中国人にとって、最先端の流行情報を得られる。中国本土を生産拠点としている企業にとってプラートを経由させることはある種のお墨付きを与えられる。

2.中国系企業の特徴

プラートにおける中国系企業の経営者や従業員には、浙江省温州市出身者が多い。経営者のパターンには、次のようなものがある。

(1)繊維産業の労働者としてプラートに入り、その後資金を貯めてイタリア系企業の労働者から独立する。

(2)イタリア系企業を買収して合法的に経営者となる。

(3)中国本土から直接投資を行い、そして貿易商として入り、その後経営者となっていく。

プラートは、これまで生地産地であったが、中国系企業は主に衣服の分野を中心にしている。プラート全体に占める衣服の比率は1995年には12%だったが、07年には40%となっている。

製造形態としては、リードタイムを短くして製品をつくるという生産手法を採用している(イタリア系企業が3から6ヶ月かかるところ、その時々の流行にあわせてすばやくつくる。

中国系企業の取扱品目は、以前は男性服がメインであったが、最近では女性服も同じような比率でつくっている。

流通ルートは、これまでのイタリア系のものを利用せず、中国系企業独自のルートを持っている。イタリア系企業との交流がほとんどない。

半製品等も中国本土からダイレクトに輸入するなど独自のネットワークのみで活動している。

品質では、イタリア系企業は、中から高級品で専門化されているが、中国系企業は、低から中級品である。

繊維産業のみならず、それを支える会計事務所や貿易商、コンサルタント業、不動産業、食料品店、インターネットカフェなど、仕事や生活に係わる産業も増えており、欧州最大の中国人街を形成している。

3.プラス面

(1)地域経済の活性化:中国系企業が居なければ、プラートの企業数減少が続いただろう。イタリア系企業の経営者が年金生活者になる年齢、後継者が居ない。

(2)中国系企業の商品が中国や欧州などに輸出され、貿易収支に貢献する。

(3)中国系企業によるプラートへの直接投資やプラートから中国本土への直接投資が行われている。

(4)労働コストを下げるため、他産地では東欧諸国やアジアに移転せざるをえないが、プラートは安価な労働力を確保できる。

(5)プラートのイタリア系経営者が引退した繊維工場を中国人企業に賃貸し、収入を得ている(これは工場だけでなくアパートなども)。イタリア人の貴重な収入源となっている。

(6)中国系企業が若いイタリア人デザイナーを雇用している。イタリアのデザイナーの競争は激しく、イタリア系企業で成功するのは難しい。そこで中国系企業に雇われてデザインを発表する機会を得られるのは若手にとってありがたい、中国系企業にとっても安くデザイナーを採用できる。

4.マイナス面

(1)不法滞在

(2)脱税

(3)労働法を守っていない

(4)模造品問題

(5)タグの張替え:中国産の生地を輸入してプラートで加工縫製してメイド・イン・イタリーで販売する、中国本土で作った服をプラートでタグを張り替える。

(6)人民元価値の不公平

(7)環境問題(排水処理をしない)

5.イタリアの産地の定義のゆくえ

イタリア産地の定義としてジャコモ・ベカッティーニは「地理的、歴史的な境界において、そこに属する企業や住民間におけるある種の文化的、宗教的、社会的価値の共有の中で成り立つ地域」としている。

しかし、現在、中国人や中国系企業とイタリア人やイタリア系企業との間に文化的、宗教的、社会的価値の共有がなされていない。筆者は、これでは「産地」といえないのではないかと疑問を投げかける。

筆者の疑問に対し、ガービ・デイ・オッターティは、前向きに捉えている。プラートの行政が適切な政策を実行することにより、中国系企業は、プラートの更なる発展に貢献できるとしている。その条件として、

(1)中国系企業はより高級な市場に絞った製品を生産し、プラートの繊維産業と結合しながら、プラートのイメージを国際的により高級はファッションの発信地へともって行こうとすること。

(2)中国人経営者は、地元のみならず、中国本土にも社会的、経済的なつながりを持っているため、プラートが今後アジア新興国と通称関係や清算の部分的分業システムを構築していくうえで重要な役割を果たす可能性がある。

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この報告は実に面白い。

日本の産地にも、労働者として外国人が沢山働いているけれども、資本蓄積して、経営者になっている例は極めて稀なのではないか。せいぜい、中国人向けとかブラジル人向け飲食店・食材店をやっているくらいだろう。その産地の本業に近いところで、これほど創業が行われているとは。

日本でも、レナウンが中国資本の買収されるなど話題になっているが、地域活性化を考えるなら、中国企業など外国企業の進出歓迎もありだ。

もちろん、イタリアのように、結局は、中国本土で織物や衣服の加工が行われ、生産基地としての役割のかなりの部分は失われるかもしれないが、グローバルな人脈や展開が得意な中国企業やインド企業と組む事により、特色ある織物やデザイナーがグローバル展開できる可能性もある。

日本の場合、こうした外国企業も東京など大都市に進出するのがこれまでだが、桐生や一宮に、うじゃうじゃと外国企業で林立したら面白い。これらの産地経営者が明治維新以降、輸出を伸ばすのだと新しい機械や染料を導入したり、あいつがやるなら俺もなどと盛り上がった時代が再現するのではないか。

日本の産地には、どうしてこういう意欲のある外国系企業が進出したり、生まれないのだろうか。

中国人やインド人の行動力と抜け目の無さで、日本の産地を見れば、面白い展開をいろいろと考えだせそうなのに。日本は規制が厳しいからなのだろうか、人々が閉鎖的だからなのだろうか。

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