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June 01, 2010

地域イノベーションの類型

前記事を事例を入れながら整理する。

○地域イノベーションの定義:

地域住民が自分たちの望む暮らしを実現するために、自ら考え、解決策を生み出し、実行し、その結果に責任を持つこと、これを「自律」と呼んでおく。

○地域とは:

行政区の場合もあれば、より狭い生活圏を指す場合もある。

○住民自治と「自律」:

「住民自治」と「自律」は、内容的には同じだが、「自律」は、必ずしも行政の管轄下にあるとは限らない。

住民自治には、参加(自治体の意思決定に参加する権利)と協働(行政と連携して住民自信も自治体の公共サービスを担うべき責務ないし義務)が車の両輪としてある。そして、参加にあたっては、法律上、地区レベルに自治協議会を設けるなどの措置がとられる。その場合、協議会に出る人を公選制にするかどうかといった議論が絡んでくる。

ここでは、商店街組合が活性化のために自律的に行うことや、団地自治会が緑の保全のために自律的に行うことも含めて考えている。このそれぞれは、ある団体や集まりにおいて参加者が意思決定し、実行し、その責任を負うが、それが必ずしも、行政全体の施策につながるとは限らない。

○自律の2つの形態:

自律には、行政(町長)主導で、進める場合(行政主導型)と、民間の動きがデファクトになっていく場合(デファクト型)とがある。なお、行政が方向性を打ち出し、民間がその風を感じてさまざまな動きを開始する場合もある。これは、デファクト型とする。

行政主導型の場合は、生活全般にわたることが多いが、デファクト型の場合には、あるテーマ・分野から始まることが多い。

○地域イノベーションの伝播:

イノベーションは、伝播することで社会全体を変革することになる。地域イノベーションの伝播には、次の3つがある。

(1)ある地域のあるテーマ・分野で自律的に起きたイノベーションが他地域に伝播する。

香川の子育てタクシー、滋賀の菜の花プロジェクト、四日市のワンディ・シェフ・システムなど。これは、ある地域が抱えているある課題に対する解決方法が、同じような課題を抱える他地域に伝播していくもので、社会イノベーションと同じである。

(2)ある地域で、「地域を活性化」しようと、強力なリーダーや仲間が自律的にイノベーションを企て、その成功体験をベースに他分野にも自律的なイノベーションを展開する。

これには、ほぼ同時期の横展開(横展開型)と、時系列的な展開(時系列型)とがある。

横展開型の事例としては、新潟のアルビレックスのように、サッカーでスタートするも、バスケや野球にまで広がる。これは、アルビレックス社長の池田さんという強力なリーダーに負うところが大きい。彼の学校法人をコアとしたグループは、多様な専門学校、介護福祉事業、起業家を育成する大学院、起業家支援など地域産業起しや地域人材育成を展開している。一人の起業家の事業が展開していると見れないこともないが、ベースには新潟の活性化があり、彼の動きが空気をかき混ぜ、志のある人材が何か始めるうえでの追い風を作っている(野球チームを始めた人、健康産業を始めた人・・・もっと事例。住民の一体感や住民の自律的動きがないか要チェック)。これはデファクト型である。

同じ横展開型でも、藤沢町は、町長が主導し、住民が自らの地域を良くしていくためのビジョンを作らせ、行政と分担してそれを実現(道路整備、花壇、工場誘致)、町としてやるべきこととして健康・医療・介護一体型サービスの実現を行ったり、農業の大規模化・有機農業への進出などを行った。これらは、基本的には、町営で行い、一関市との合併問題の過程で、一部民営化された(要チェック)。これは行政主導型である。

上記の横展開型もある時期に一斉に実施されたわけではなく、結構時間をかけて進められてきたのだが、一人の強力なリーダーの傘下というか風のなかで実施されたという意味で横展開としている。

これに対し、時系列型というのは、ある時期強力なリーダーの下に自律的な動きがあり、一定の成果を収めるものの、時代や環境が変化するなかで、新しい対応に迫られた地域が、次世代の動きとして新しく自律的な展開をしている例である。これは、リーダーとなる担い手は、世代(分野)が以前とは異なるものの、自律の風土で育ったことが次の自律へとつながっていきやすかったのではないかと考えられる。時系列的な動きが自律の「風土」とか地域のDNAになっていることが抽出できれば面白いのだが。

詳しく調べるのは、これからだが、たとえば、湯布院がそうなのではないかと考える。映画祭などから始まり行ってみたい観光地として名前を上げた湯布院だが、その後、旅館の料理長らがゆふいん料理研究会設立し、競争のなかにも、共に学んで湯布院全体を良くしていこうという会が発足、スローフード的発想を打ち出すなど、新しい動きがある。これを言い出した料理長(新江憲一氏)は、映画祭などを主催したのとは別の旅館(草庵秋桜)だが(亀の井別荘の中谷健太郎氏も係わっているようだが)、この土地の人ではないかもしれない(20年前に来たらしい)。彼は今、九州全体の農業も含めたツーリズムなどにも係わっているようだ。

(3)ある地域でのある分野の「自律」が他分野の「自律」を促す。この場合、第二のように、一人の強力なリーダーの下に多様な展開が行われるのではなく、A分野はAさんが主導しているが、B分野はBさんが主導するというように広がる。行政型で始まって、民間のデファクトが起こる場合もあるし、強力なリーダーが「自律」は良いことだと風をそちらに向かせることによって、さまざまな人たちがそれぞれの得意分野で「自律」を始めるデファクト型もあるだろう。

アルビレックスで、池田さんが動くことによって風が起こり、多面的な人たちが自律的に動き始めているとしたら、第二の例に加えて第三の例になっているのかもしれない。

時系列の事例であげた由布院は、もしかすると、第三なのかもしれない。

このほか、たとえば、栗山町で、クリンの動きをAさんたちが行い、その玉突きのような形で議会報告会のようなものを議員ら(Bさんら)が始めたのも、時系列なのか、第三の例なのか、もう少し調べたり、考える必要がある。

板橋区のサンシティ志村では、住民が森の管理をしている(有賀一郎、堀大才両氏の指導)。この運営にあたっては、上層階と下層階とでは意見が異なるなど、意見調整しなければならず、下枝管理や草取りなど、汗をかかなければならない。森の管理を通して、住民の間に話し合うことや、自分たちが汗をかくことが当たり前となり、次に別の問題が生じた時に、自律の動きが出やすいということがあると面白いのだが。

HPによると、駐車場建設や福祉クラブなどの自律的な動きが次々に生まれているようだ。ここは、住民自治の非常に良い例のように思える。

一方、藤沢町はあれだけのことをしてきたにも係わらず、人口減少は続いており、ついに1万人を切って、一関市との合併に向って動き出している。住民への説明会でも、合併しなくてもやっていけるのではないかなどの意見は出ているものの、人口減少(が問題であるなら)という現実に対する新しい動きなどが住民や若い行政マンから出てきてはいないようだ。

健康・医療・福祉の総合的包括的サービスが実施されている非常に先進的な地域であるなら、こうした分野の専門学校をつくるとか、あるいはせめて分室を作るとか、それこそ、田舎でも可能なIT企業を改めて誘致するとか、何か新たな手立てをしているようには見えない。また、デファクト的な民の動きも出てはいないようだ。この辺りは要チェック。イノベーションのジレンマの事例なのだろうか。

これも、「自律」の風土が醸成されたとか読み込めると面白い。

○「自律」の風土・DNA

残念ながら、「自律」が一度起きても、これがその地域のDNAのようにはならないようだ。藤沢町でも、病院支払いの未納者がいると聞いて驚いた。最初の危機感→自治をやるしかない→住民も汗をかき、行政も汗をかいて実現→これが当たり前となった頃に生まれた人も増える、あるいは惰性になる→自治という本質を忘れてしまい、恵まれた現状を維持発展させるために汗をかきつづけなければならないことを忘れてしまう。強力なリーダーの下で、自治とは言いながらリーダー任せになってしまったきらいもあるだろう(依存体質の再来)。

自治を思い起こさせる、自治は、日々のことであることを理解させる「教育」が必要である。

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