荒磯先生が北海道中小企業家同友会と連携して北海道産学官連携連携研究会(HoPE)を立ち上げている。
HoPEは、1対1の産学連携では領域が限られ、イノベーションが発生する確率が低いために考え出された仕組みで、ある企業について大学側から「ホームドクター」を1人選び、事業化ニーズに応じて専門のアドバイザーとなる教官を紹介するというシステム。1年前の記事に「アドバイザーには各大学・研究機関から100人以上の研究者」が協力していると書かれている。現在複数の多様な研究会が組織化されている。
そうした流れの中で、2年ほど前に、北のブランドものづくり工房(株)プラウシップが生まれた。地元のゴムメーカー、自動車メーカーのエンジン開発をやっていたCAD会社、それとソフトウェア開発を手がける会社の3社が設立した。共同受注・生産のシステムで、道内の機械メーカーや商社と連携し、大学や道工試などの研究機関のシーズと組み合わせて注文に応じた機械を生産することを目指している。
私が係っているITカロッツェリアは、ものづくりIT工房を作ることを目指しているので、ここと連携したらよいのではないかと、CAD会社社長のNさんに相談しにいった。
Nさんは、自動車メーカーを脱サラして北海道に戻り、経験を活かしつつ北海道でものづくりをしたいと考えて、プラウシップにも参加しているが、北海道には、ものづくりで最も重要な機能が欠けているので苦労しているという。
ものづくりは、①市場調査、②企画・構想、③概念設計、④基本設計、⑤詳細設計、⑥試作、⑦評価1、⑧改良試作、⑨評価2・・を繰り返して商品が出来上がる。①市場調査をすれば、お客さんは、格好よくて、速く走って、しかし安い車が欲しいという。しかし、それを全て叶えるわけにはいかないので、妥協しなければならない。Nさんは、先輩に、ものづくりは究極の妥協だと言われたという。
つまり、②企画・構想で、えいやっと妥協点を見つけ、③概念設計、④基本設計を行う。たとえば、格好よいというので、スポーツカータイプにするが、エンジンは1500CCのなかでもっとも馬力が出せるものにし、鉄のボディにして、価格は150万円くらいにしよう(この事例は私のいい加減なものです)などと決める。そうやってはじめて詳細設計が出来る。
ところが、北海道の製造メーカーに「こんな風なものをつくりたいので知恵を出してよ」といっても、そんなことを言われてもわからない、「こういう形のものを作れ」とか、「ここをこう削れ」と言ってくれといわれるというのだ。
つまり、自分で開発をしたことが少ないので、詳細設計を見せられてその通りに加工することはできるが、ああでもない、こうでもないと妥協しながら商品企画をしたり、およその絵を書くという経験が少ないというのである。
Nさんは、ここが出来る企業が少ないので、プラウシップを設立したゴムメーカーやNさんがエイやっと決めているのだという。だから、「ものづくりIT工房」を私がつくるというのだが、ITをやってきた人で、ものづくりの経験を持たない人がこのエイやっと決めるところを出来るのだろうかと心配してくれた。
また、お客からみた場合、「ものづくりIT工房」が頼んた商品の責任を取ってくれるのかどうか、信頼が置けるのかどうかが心配である。この「工房」が責任を取れるのか、お客からみて、信頼を得られるのかというアドバイスも頂戴した。
プラウシップは、強力なリーダーが居るのではなく、共同受注方式なので、お客からみて安心してもらえるように、荒磯先生などの有識者も入れた評議会のようなものを作っており、そこで、お墨付きをもらうやり方を取ることで、安心感を得ようとしている。また、リスクなどの取り方も、そこで決めているらしい(このあたりはちょっとあいまいです)。
「ものづくりIT工房」は、プロデューサー機能を果たすP社が、農業とか観光とかのニーズを見つけてきて、地元のIT企業などに仕事を依頼し、「工房」の機能を活用して、ものづくりをして提供するという絵を描いている。では、P社は、ニーズを実現するために、エイやっと商品企画が出来るのだろうか、お客への品質保証をやりきれるのだろうか、リスクはどのように分担しあうのだろうか、運転資金はどうするのだろうか。
・・・・ものづくりIT工房の担い手が見えてきたので、少し安心していたのだが、Nさんの話を聞いて、実際に動くものだろうかと心配になってしまった。
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