ゴミについて述べたのと同様、地方財政についても、素人では、なかなかデータを読み込みにくい。
西東京市は、田無市と保谷市が合併して今年が10年目になる。
『西東京市の合併10年のあゆみ』というパンフレットを市のHPから入手することができる。上記パンフレットでは、合併によって得られた財政的なメリットや経費削減が進んだことが書かれている。
先日、「これでいいん会西東京」という団体が開催したNPO法人多摩住民自治研究所理事長の大和田一絋先生の地方財政についての講演会があり、そこに参加した。
以下は、先生のご説明と上記のパンフレットから私なりに作成したものである。
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1.合併を促進するための飴
まず、財政危機もあって、政府が主導して「平成の大合併」が進められた。合併を促進するためにアメとしてとられた措置に大きく2つあって、①合併算定替と②合併特例債である。
①合併算定替
合併算定替を理解するには、現状、多くの地方自治体の財務は、自ら確保する収入だけでは成り立たず、国から「交付税」を配分してもらって成り立っているという前提がある。
本来、A市とB市が合併してC市が出来た場合、ムダが排除され、交付税が減少するはずであるが、10年間は、合併しなかったこととして交付税を減らさないことを保障し、その後5年間は、徐々に減らし、合併16年目で本来の交付税になるという制度である。
ただし、2001年度から交付税を算定するのに用いられる「基準財政需要額」が圧縮されたので、交付税そのものは合併のいかんにかかわらず、減少した。
②合併特例債
これは、合併後10年間のハコものに限定した特例債事業について、元利償還金のうち95%(上下水道、病院事業に係る出資および補助は地方債100%)を地方債で組むことができ、しかもそのうちの70%が交付税で措置される。つまり、自治体の負担が3分の1で済むというもの。
2.西東京市は、合併によって大きく水ぶくれ
上記パンフレットによれば、合併により、10年間で約450億円の財政支援措置があったとされている。
①西東京市の合併算定替
普通交付税以外にも財政支援措置があるようだが、普通交付税に限ると合併算定替による増加分として、平成22年度には約10億円が計上されている。10年間では、合計で約140億円が水増しされた計算になる。
現在の西東京市の歳入額は、平成22年度(2010)で680億円、うち6.3%にあたる42.5億円の普通交付税が交付されている。
上記パンフレットには、合併によって議員数や職員の数が減少するなどにより、10年間で約160億円のコスト削減効果があったことが謳われている。しかし、合併後10年間ないし15年間は、本来よりも多目の予算が組めたため、危機意識が薄れ、本来やるべき合理化がおろそかになっていたきらいはないのだろうか。
平成22年に約10億円下駄を履いている分が、今後5年間かけて減少し、6年目に当たる平成28年(2016)には、ゼロになるという覚悟が必要である。
②西東京市の合併特例債
合併特例債によって、市の負担は3分の1で様々なハコものを作ることができた。
合併特例債を使用した事業は、31あり、主要な事業としては、いこいの森公園をはじめとする公園整備、小中学校の整備、保育園や児童館施設の整備などが大きい。
上記パンフレットによれば、合併特例債により、248億円の起債を行ったとある。
確かに、合併特例債により、市の能力よりも大きな事業が行えたというのは、市民にとってメリットではある。しかし、そうはいってもこれにより、負債が増えたことに変わりはない。
『西東京市財政白書』平成22年度によれば、平成22年度の市債借入額は、87億円で過去最高となった。しかし、合併特例債では7割、臨時財政対策債(注)では10割が交付税で賄われるため、市の負担としては、27億円となるとのこと。23年度が33億円で市債借入額のピークとされている。
市債の元金および利子等を返済する償還費のことを「公債費」と呼ぶ。これは、平成22年度には55億円、公債費のピークは26年度で70.5億円と予想されている。これについても、交付税で賄われる分があるので、市の負担としては、毎年20億円程度で推移するとされている。
『財政白書』によれば、公債比率(標準財政規模に対する公債費の比率)は、今後とも、6%前後で、類似の自治体と同程度とのこと。
しかし、将来的に歳入が現在と同程度と仮定してのことと思われ、今後、生産年齢人口が減少し、税収も減ると思われるうえに、前述のように合併算定替の下駄も無くなるなかで、確実に支払わなければならない公債費が20億円あるということを意識する必要があるだろう。
さらに、これは、新たな借金をしないこととして考えている訳だが、現在、市庁舎を1つにするという話もあり、立て替えということになれば、新たな借金も増えることになる。
③老朽化した公共施設やインフラの更新
また、地方自治体にとって、頭が痛いのが、今後、さまざまな公共施設やインフラが老朽化し、それを更新する時期が近づいていることらしい。
「将来の膨大な修繕費用が隠れ負債化している」と言われる。
西東京市では、平成19年10月に『施設白書』が作成されており、2017年(平成29年)ぐらいから建替え経費が増えていくとされており、2028年までの20年間に383億円が必要とされている。
3.財政が厳しい中で、取捨選択するには、未来についての市民対話が不可欠
この記事は、合併による飴の話と施設更新の話を中心に作成したが、このほかにも、財政を厳しくしている国民健康保健事業や下水道事業など、普通会計から赤字を補てんしている事業の問題などがある。
いずれにしても、財政が厳しい中、これまでは、合併特例、あるいは、工場跡地にマンションが建ち、人口が増加しているといった特殊な要因で厳しさが目立たなかった面があるものの、そうした「特例」が無くなる中、今後、より厳しい運営が求められる。
そうなると、総花的に支出する訳にはいかず、どのような暮らしを望むかという市民を巻き込んだ取捨選択の合意形成が必要になる。
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先日、東洋大学が来年度から新たに開設するPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)の講座の宣伝を兼ねたシンポジウムがあった。
PPPは、官民連携と聞こえは良いが、これまでの実態は、NPOなどの民にこれまで官がやっていた事業を安価で委託するというものが多かったように思え、余り好きではなかった。しかし、東洋大学でこれからやろうとしているのは、財務の健全化のために、官民が協力しあうというところに力点を置いているようだ。
このため、アメリカで導入されている①シティ・マネージャー制度や②バランス・バジェットという考え方から、日本が学ぶべきことについての講座を設けるという。
この考え方の背景には、現在目に見えている財政の悪化に加え、社会資本の老朽化という見えない負債という爆弾を抱えているという危機感がある。このため、東洋大学では、「社会資本の老朽化と更新投資」について算出できるソフトを公開しているとのこと。
今回のシンポジウムで興味深かった意見:
1.根本先生:鳥取市が市庁舎を建てるかどうかについて、住民投票を行った。①新規に建てるか、②修繕して使うかについて、それぞれにかかる経費を示し、結果②が勝った。こういう情報公開をして住民に問うというのは、良いやり方だが、もしかすると、他の選択肢も示すべきだったのではないか。たとえば、他の予算項目を減らして建替える場合はどうかなど。
2.ロバートソン氏:バランス・バジェットには、①バランスを崩している原因の究明、②均衡させるための選択肢、③6つのステップで検討、④最終的な提案を学ぶ必要がある。これらは、来年度から始まる講座で教えるとのことで、特に地方自治体の人たちに入学を勧める内容だった。しかし、今一つよく分からないので、質問をしたところ、受けてくれ、以下のような面白い話をしてくれた。
カリフォルニア州オークランドでやった例では、たとえば、公共サービスを1ヶ月休みにして、電力量やエネルギー費を浮かせたりした。市民の理解を得るために、新聞に記事を掲載したり、対話集会を開いたが、そのほかにも、警察官の人員を削減し、治安が悪くなることと、税金を上げることと、どちらが良いかなどをゲームのようにシュミレーションできるようにし(WEBで公開)、市民の理解を深めるなども行ったという。
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つまり、市民に、財政をバランスさせるためには、公共サービスを減らすのがよいのか、増税がよいのか、それによるプラスマイナスの効果を理解してもらうために、さまざまな情報提供や気づきが起こるように工夫したという訳だ。
当日の日本の先生方は、財政バランスという経済の側面を重視した話し方をしていた。しかし、フューチャー・セッションのことも知っているなかで、このアメリカ人の話を聞くと、市民を巻き込み、対話によって理解を進めるために、情報公開はもちろんだが、市民がより身近な問題であると理解できるようきめ細かい情報公開をしていること、対話集会だけでなく、ゲームによるシュミレーションといった工夫(ソーシャル・デザイン)を行っていることが想像できた。おそらく、市民を巻き込むうえで、ここが味噌なのではないかと感じた。
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